“育休の強制”という劇薬効果?

いくら法律を変えても、経済的支援を増やしても、日本の場合、それだけで育休取得率を上げるのは難しいと考えた結果、FJが着手したのが、イクボス、つまり「職場で共に働く部下・スタッフのワークライフバランス(仕事と生活の両立)を考え、その人のキャリアと人生を応援しながら、組織の業績も結果を出しつつ、自らも仕事と私生活を楽しむことができる上司(経営者・管理職)」を養成することでした。

トップがイクボス宣言をした某生命保険会社では、2013年度に、有給扱いの7日間で短期でもいいからパパである男性社員に育休を取らせることを始めたそうです。

半ば強制的なそのやり方には賛否両論あったそうですが、1年目から男性育休取得率100%を達成し、2年目以降からは100%を達成しながら、より計画的にに取る社員や、取得期間の増加もみられ、子どもが生まれたら男性は休むという文化の醸成に成功しました。

「時には劇薬も必要」と塚越さんは言います。

子育ての醍醐味は、やってみないとわからないことの代表なのではないかと思います。子どものやることは、大人のものさしで見ると、イライラしてしまうようなことばかりに思えます。そんな子どもとつきあう時間が、実は何にも代えがたいプライスレスなものだと気づくためなら、強制育休取得命令のようなやり方もアリなのかもしれません。

一番身近な反対者は意外なところに

実は、取れるものなら育休を取りたいというパパは少なくありません。2013年の調査では、男性の6割強が育休を取得したいという結果が出ています。

ただ、自分からは育休を取りたいと言い出しにくい、というのがパパの本音のようです。言い出したところで、ママから相手にされなかったり、それよりも働いてほしい、と言われたりすることもあると聞きます。

ですが、よく考えてみれば、育休を取ることは、パパの権利でもあるのです。そういう意味では、この育休問題は夫婦のパートナーシップの見直しにもつながるかもしれません。
子育てを終えてもいい関係でいるために、なんでも本音で話し合えるといいですね。

話してみたら、実はママはパパに休みを取ってほしかったけれど、まさかパパが取りたいと思っているとは思っていなかった、というケースもあるかもしれませんよね。

前時代からの“呪い”を解くには?

パパが育休を取ることにすぐには賛成できないママや世間の価値観は、おそらく前時代から引き継がれたまま、更新が止まっている「昭和のOS」だと塚越さんは指摘します。

「たとえば、家事の役割分業は、話し合ってきめているのではなく、なんとなくそうなっている夫婦が多いのです。彼らの両親の多くは、働く夫と専業主婦の妻で、ロールモデルとしては20~30年も昔の型を今の生活にあてはめようというのですから、無理があります。

子どもがいなかった頃には平等だったのに、子どもが生まれた瞬間から、育児と家事は妻、仕事は夫、と自動的に分業体制になるのは、完全に前時代からの“呪い”です」

その“呪い”を解く役割を担うのがNPOやメディアです。

“呪い”を解く一例として、塚越さんは、最近、通勤電車のなかで目にした電化製品のCMをとりあげていました。共働き家族の平日の様子が描かれていて、時代の変化を感じたとのこと。

無意識に耳目にふれる情報にこういったものが増えていけば、パパが育休を取ることがふつうのことになっていくのではないでしょうか。

パパの育休をぜいたく品から必需品へ

積極的に育児に参画するパパのロールモデルのなさは、ワーキングマザーの比ではありません。男性で育休を取っている人は、芸能人や経済的な余裕がある人、というイメージも強いようです。自分とかけ離れていると、ロールモデルにはなりにくいですよね。

ロールモデルが増えることも大事ですが、と塚越さん。

「世の多くの人にとって、男性の育休が一部の人にしか取れないようなぜいたく品に見られているという現象は、女性たちにとっての育休がぜいたく品だった1990年代と同じなんですよ。多くの女性が仕事をやめるのが当たり前だった中、育休を取得する女性は、母親失格だと言われても泣きながらがんばってきたという歴史があるんですね。その結果、女性にとって育休はぜいたく品から必需品になっていったのです。

多くの男性が仕事だけするのがまだまだ当たり前の中、育休を取得する男性は少ないし、風当りも強いですが、彼らが次にバトンを渡す人が増えていけば、育休が子どもを持つ男性にとっての当たり前のことになるはずです」

育休を取るパパは、自分の子どもだけでなく、なるべく地域や親せきの子どもに、堂々と自分のイクメンっぷりをみせてあげるといいのではないでしょうか。どんな教育よりも効果があると思います。

まとめ

男性の育休取得率をあげるために、ママからできることとしては、パパが育児に協力的でないことをただ嘆くのではなく、まずは自分のなかに、パパを育児から遠ざけている原因の一端がないか、見つめ直すことがあるかもしれません。

物事が変化するには時間がかかることもあります。それでも希望を失わないで努力を続けることが大事ですね。それが自分たちのためだけでなく、次世代にもつながっていくのだと思います。

【取材協力】
塚越学
特定非営利活動法人(NPO法人)Fathering Japan(ファザーリング・ジャパン)理事。
男性の育休促進事業さんきゅーパパプロジ ェクトのプロジェクトリーダー。