ハサミ、はしご、セミの抜け殻、変わった奉納物
福島県の橋場のばんばに山のように奉納されているのは、ハサミ。ここには縁切りや縁結びを願う人がハサミをおさめる。縁結びを願っている人は、錆びたハサミや刃を針金でぐるぐるに縛った「切れないハサミ」を、縁切りを願っている人は新しい「切れるハサミ」を。
ハサミのぐるぐる具合を見るとその祈りの深さが伝わってくるようである。とにかく縁を結びたいという心意気が伝わってくる針金の巻き方だ。
供養とはまた異なる、奉納者が生きている「今、この時」への強い想いを感じることのできる奉納物というのも興味深い。
福岡県の縁切りで有名な野介縁切り地蔵は、男女が背中合わせになった絵柄の絵馬が奉納されている。男女の縁だけでなく、嫁姑、ストーカーなどの人間関係、酒やギャンブルといった悩み事、さらには背後霊との縁切りというオカルトなものまでさまざま。絵馬とともに貼ってある封筒には縁切りの願いが書かれているのだが、同じ筆跡で何通もの封筒を納めている方もいるという……。
そのほか、おねしょ封じ祈願にはしごを納めたり、自分の年齢の数だけ願い事を書く祈願分を納めたり、たくさんの千羽鶴に紛れてセミの抜け殻が連なったものを納めたり……。「なぜこれを?」というような好奇心をくすぐられる奉納物が、この世の中にはあふれている。
日本は特に「奉納」がエモーショナル!
海外のお寺も数多く訪れている独観さんによると、日本は海外と比較しても奉納物に関して特にエモーショナルだという。
海外では、故人の等身大人形を納めたり(インドネシア)、紙で作ったブランド品や家電を故人へのお土産に納めたり(マレーシア)という一風変わった習慣はあるが、やはり日本の感情の爆発っぷりとは種類が異なるようだ。
「なぜこれを?」「なぜこんな願いを?」
そんな好奇心で奉納物を眺めていると、次々と想像が膨らんでしまう。きっと納めた人はこんな人で、こんな理由で……と、決して知ることはできないその真実を、勝手に思い描いてしまう。人々の欲や悩みが凝縮された奉納物。神社仏閣を訪れる際の楽しみがまたひとつ増えそうだ。
取材/森嶋千春