『ヒッチコック』について語った大林宣彦監督

日本映画界を代表する巨匠にして、映画監督アルフレッド・ヒッチコックの熱烈なファン“ヒッチコキアン”でもある大林宣彦監督が、映画『ヒッチコック』(サーシャ・ガバシ監督/4月5日公開)を機に世界的に盛り上がるヒッチコック再評価の機運について「ヒッチコックは映画文化が最も爛熟(らんじゅく)した時代の象徴的な存在。再び注目を集めるというのは、映画の未来に希望を感じるね。何しろ、どの作品も面白いんだから」と思いを語った。

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映画は数々の苦境や周囲の無理解を乗り越えて、傑作『サイコ』(1960)を完成させるまでのヒッチコック夫妻の姿に迫る。「ピークを過ぎた」と囁かれたヒッチコックが一念発起し、復活の道のりを歩む姿を軸に、彼を支え続けた妻アルマとの関係にスポットを当てた。

子供の頃から筋金入りの映画少年だった大林監督。「アルマは名編集者であり、名ライター。さらには名秘書でもあったから、逆に僕ら映画少年はアルマのことは“見て見ぬふり”をしていた。ヒッチコックもアルマも、決してモテるタイプではないけど、ものすごくロマンチスト。そんな二人の美談を描くのも面白いけど、当時を知っている僕ら世代から見ると『ちょっと若いな』って思う部分もあるかな」と持論を展開する。

「ヒッチコックという監督は、キャメラ越しにヒロインに恋していた。それは僕も同じかな」と大林監督。一方、『サイコ』は「主演のジャネット・リーが、キャメラ越しの恋人ではなく、創作上のパートナーになった珍しいケース」だと言い、「だからヒッチコックの雑念がなくて、すごく健全な映画に仕上がっていると思う。そういう意味では、偶然が生んだ最高傑作ともいえるかな」と分析した。

リアリティーを追求し過ぎる現代の映画手法には、異論を唱える。「映画とはあぶり出しのだまし絵。ゆえにウソから出たまことが、人の心を打つんです。芸術文化の素晴らしさは、人間のイマジネーションにある。『何、これウソみたい……。でも現実よりも怖いし、面白いし、うっとりしちゃう』っていうのが映画の魅力だからね」(大林監督)。ヒッチコックという偉大な名匠を知る機会であり、映画本来の面白さを気づかせてくれるきっかけにもなる『ヒッチコック』を、「僕らヒッチコックファンはもちろん、ぜひ若い人たちに観てほしいな」と期待を寄せていた。

取材・文・写真:内田涼


『ヒッチコック』
4月5日(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー