時代にあわせて進化を続ける“魔法少女”コンテンツ

最後に、『まどか☆マギカ』『リリカルなのは』『プリズマ☆イリヤ』の3タイトルに共通するポイントを考えてみたい。まずストーリーの序盤で「平凡な日常を送っていた少女が魔法という“非日常”に出会う」のはどれも変わらない。その定番を踏まえたうえで、ダークな物語に、ドハデな戦闘に、深い世界観に、それぞれ独自の強みへ特化していっている。魔法少女ジャンルが誕生して40年以上、バトル要素を取り入れた『美少女戦士セーラームーン』から数えても20年を超える歴史がある。もはやかわいい魔法少女が戦うこと自体は当たり前、そこからどう差別化するかが求められているのだろう。

また、3作品ともヒロインが作中で特定の男性キャラと相思相愛の仲になる展開はない。むしろ少女が少女に対して“友達以上”の感情をもつような、百合(女性同士の恋愛)テイストな含みが目立つようになった。百合専門のコミック誌が刊行されたり、『ゆるゆり』をはじめ百合アニメが人気となっている昨今、男性ファンを獲得するためにはこういう要素を取り入れることが大事なのかもしれない。

ちなみに意外な共通点としては、3作品とも成人向けゲーム、いわゆる18禁の“アダルトゲーム”に深く関係している。『リリカルなのは』は当初、アダルトゲーム『とらいあんぐるハート3』の後日談シナリオとして誕生した。現在のアニメ版とは基本的に別物だが、ヒロイン・なのはを含め世界観や固有名詞はほぼ変わっていない。いまや一般向けに広く展開されている『Fate』シリーズも、1作目と続編(ファンディスク)はWindows専用のアダルトゲームだった。そして『まどか☆マギカ』は全年齢向けのTV版がオリジナルだが、脚本を務めた虚淵玄氏はアダルトゲームのシナリオライター出身。現在彼が所属している株式会社ニトロプラスもアダルトゲーム業界では有名ブランドだ。

パソコン普及期からゲーム業界を支えてきたアダルトゲームだが、近年は急激に冷え込んできている。ここ10年ほどで市場が半分以下に縮小したという話もあるほどだ。そんな中でも才能あるクリエイターは現れ、おもしろいコンテンツは育っていく。そういった才能が狭いアダルトゲームというジャンルを飛び出し、美少女が活躍する一般向けタイトルで大いに人気となっているのは興味深い。

時代の流れを取り入れつつ、まだまだ進化の終わりが見えない“魔法少女”ジャンル。ちょっとでも興味を持った人は、ひとまず先入観を捨てて楽しんでみてほしい。

パソコン誌の編集者を経てフリーランス。執筆範囲はエンタメから法律、IT、教育、裏社会、ソシャゲまで硬軟いろいろ。最近の関心はダイエット、アンチエイジング。ねこだいすき。