舞台『みんな我が子』稽古場より 舞台『みんな我が子』稽古場より

長塚京三、麻実れいらが出演する舞台『みんな我が子』。12月2日(金)に開幕するこの作品の稽古場に11月某日、訪れた。

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作品は、アーサー・ミラーのトニー賞受賞作。現代社会を鋭く風刺する作風が特徴で、本作以外にも『セールスマンの死』『橋からの眺め』などは日本でもたびたび上演されている、現代アメリカ演劇を代表する作家だ。この戯曲を、今回は33歳の若さながらあのハロルド・プリンス(『オペラ座の怪人』や『キャバレー』などの演出家)の一番弟子と言われるダニエル・カトナーが演出を手がけるのも話題だ。

当日の稽古で集中的に行われていたのは、1幕後半のシーン。舞台はある一家の裏庭だ。一家のあるじジョーと妻ケイトには、戦争に行ったまま戻らない次男ラリーがいる。この日はラリーの婚約者アンが訪ねてきた。実はアンはラリーの兄クリスと密かに愛し合っているのだが、ラリーの帰還を信じるケイトにはそれは到底認められない……。長塚演じるジョーは工場を経営し、成功を掴んでいるかのように思える男。長塚のダンディさと朗々たる声は、成功者らしい堂々とした存在感を生む。だが心の底に隠した秘密や小心さが、言葉を重ねるたびに浮き彫りになっていくよう。麻実もケイトを上流階級の夫人らしいフレンドリーさ、真実から目をそらす母親としての愚かさと悲しさを巧みに演じる。このベテランふたりがやはり稽古場の空気を牽引しているようだ。そこにアン役の朝海ひかる、クリス役の田島優成が若者ならではまっすぐな悩みを清潔感をもってぶつけていく。

ダニエルの演出は「その足で一歩奥に入ってください」「“ラリーのことは忘れたわ”というセリフはもっとクリアに」等々、細かい。だがその一言一言に、次男の生存を信じる母、すでに諦めているが母にそれを言えない父と長男、そしてその真実を突きつける存在である来訪者、という緊張感ある人間関係が、ビジュアル的にも明確になっていくのがわかる。さらに「先ほどは歩きながらセリフを言いましたが、今度は止まって言いましょう」など様々なトライアルを繰り返す。その柔軟さに呼応するように、俳優たちも積極的に演出家に質問を出していく。特にベテラン・長塚が「どちらのパターンが良いか」など、フットワーク軽くダニエルとディスカッションしている。とても知的な創作現場という印象だ。

この日は他に、アンの兄・ジョージ(柄本佑)がやってくる2幕冒頭のシーンの稽古もあった。ジョーの隠していた真実を糾弾する彼の存在は、一家の崩壊の種を爆発させる。1幕とは別の緊張感があり、物語は急展開を見せる。作劇的にもスリリングなこの作品、気鋭の演出家と充実した俳優陣が創り上げる本番が楽しみだ。

公演は、東京が12月2日(金)から18日(日)まで新国立劇場 小劇場、大阪が12月20日(火)・21日(水)にサンケイホールブリーゼにて。チケットはともに発売中。