『ヒッチコック』撮影風景。(左より)アンソニー・ホプキンス、サーシャ・ガヴァシ監督(C)2012 Twentieth Century Fox. All Rights Reserved

“サスペンスの神様”と称えられる映画監督の知られざる素顔を描いた映画『ヒッチコック』が公開されている。本作を手がけたサーシャ・ガヴァシ監督は偉大な映画作家の人生をあえて“ラブ・ストーリー”として描こうとしたという。

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『サイコ』『めまい』『北北西に進路をとれ』など数々の名作を発表し、映画界に多大な影響を与えたヒッチコックを題材にした本企画には、スティーヴン・スピルバーグやマーティン・スコセッシら多くの映画作家が興味を示していた。しかし、本作に抜擢されたのは、ドキュメンタリー『アンヴィル!夢を諦めきれない男たち』を手がけ、大きな注目を集めたガヴァシ監督だった。

監督はまず、本作の基になった書籍を読み、ヒッチコックが『サイコ』の資金調達のために自宅を抵当に入れたというエピソードが目に止まったという。「ヒッチコックはそれだけのリスクを冒しても、観客とつながりを持ちたかった。僕にはその気持ちが痛いほどよく分かる」。というのもガヴァシ監督も『アンヴィル!…』のために自宅を抵当に入れた経験があるからだ。「自分の評判や財産を賭けて何かに打ち込む人のストーリーに共感したんだ。『アンヴィル』はクリエイティブな人たちの結びつき、協力の話だったけど、それは本作でも同じだ。このすばらしい結婚についての誰も知らないストーリーだからね」。

監督が語る“すばらしい結婚”とは、ヒッチコックと彼の妻アルマのことを指す。アルマは映画編集者で、ヒッチコックの創作に大きな影響を与えた人物だ。ガヴァシ監督は「みんな違うものを予想しているけど、僕はアルフレッドと妻アルマの話を“ラブ・ストーリー”として描きたいと思った。ある意味、これは負け犬のストーリーなんだ。なぜならヒッチコックは時々、中傷されたり、型にはめられた見方をされていたからだ。型にはまったものをくつがえすというアイディアが気に入ったんだ」。

多くの映画作家がヒッチコックの映画を撮るとしたら“偉大な人物”が次々に偉業を成し遂げていく伝記映画を作るだろう。その方が無難だし、賞レースでほめられる可能性も高いからだ。しかしガヴァシ監督は、どんな批判にもめげず、評論家の評価ではなく、観客の心を揺さぶり続けることに執着した“ひとりの男”と“その妻”の物語を描いた。「『アンヴィル…』でも同じだった。彼らはダメないかれた連中に見えるけれど、ちょっとだけ内面をのぞいてみるともっとそれ以上のものが隠れているんだよ」。誰もが知る名監督の“内面”にはどんなドラマが隠れているのか? ガヴァシ監督が光をあてた知られざるドラマをスクリーンで体験してほしい。

『ヒッチコック』
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