「過去の僕の映画にはなかった」周防正行監督が語る『終の信託』

2013.4.15 10:57配信
『終の信託』を手がけた周防正行監督(C)2012 フジテレビジョン 東宝 アルタミラピクチャーズ

周防正行監督が昨秋に発表した『終の信託』のブルーレイとDVDが発売される。医療の現場を舞台に、命の尊厳と死の持つ意味を問いかける重厚な作品だが、監督は本作を「そこに生きている人のドラマを描いた作品」だと語る。公開から約半年を経たタイミングで話を聞いた。

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本作の主人公・綾乃(草刈民代)は、自分の患者で、重度のぜんそくに苦しんでいる江木(役所広司)から“ある願い”を託され、それを実行にうつしたことから殺人罪の容疑で、検察官・塚原(大沢たかお)から激しい追及を受ける。綾乃のしたことは医療なのか? それとも? 映画は前半で綾乃と江木のドラマを結末まで描き、その後にノンストップで綾乃と塚原の息つまる駆け引きを描いている。

多くのドラマであれば、検察官と被疑者のやり取りを描きながら事件を回想する形式を選択するだろう。しかし、周防監督は本作の構成こそが「現実の取り調べと同じ」だと語る。「現実と唯一違うのは、綾乃が体験したことを観客も知っているということです。観客は綾乃と同じように検察官の質問に答えることができる。でも、現実の世界では当事者だけが起こったことを知っていて、そのことを知らない検察官が事後に質問するんですね。だから当事者が体験したことが、本人が思っているようには調書にならないし、検察官にもそれが真実かどうかはわからない。映画としては大胆な構成かもしれないけど、僕にとっては当然の構成でした」。

ちなみに本作は医療問題や、検察問題を中心にした作品ではない。医療の現場とそこで発生するであろうドラマを描いているが、中心にあるのは、ある男性と出会ったことで変化を遂げていくひとりの女性のドラマだ。「これまでの映画は『シコふんじゃった。』も『Shall we ダンス?』もそうですけど、主人公のいる世界やシステムを見せながら映画を語っていきましたが、この映画はそこに生きている人のドラマから見える世界を描いた作品なんですね」。その結果、画づくりもこれまでの周防作品とはまったく異なるテイストに仕上がった。「『シコふんじゃった。』はあえて間の抜けた画を、『Shall we ダンス?』は見上げる視線とダンスの形式を意識した画づくりをしましたけど、今回は小説を読んだ時に感じた濃密な空気があって、それを映画として表現することに監督として初めて野心が芽生えたというか。だから、あえて“フィルム”にこだわって画を作りこみました。これは過去の僕の映画にはなかったことです」。

『終の信託』は観る人それぞれが異なる反応を見せ、異なる解釈を持つドラマだ。と同時にブルーレイやDVDで観返し、丁寧に描きこまれた画や、俳優の微妙な表情の変化を注視することで、映画館で観賞した時とは異なる印象や反応が導き出される映画でもある。周防監督が観客に託した問いは、まず現代の観客に、そして次世代の映画ファンにも広がり続けるのではないだろうか。

『終の信託』
Blu-ray/DVD
4月19日(金)発売

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