前作から2年4ヵ月ぶりという長いスパンを経て発表されたPerfumeのニュー・アルバム、『JPN』。

タイトルが発表されたときは、正直「これはまた大きく出たな」と思ったが、そんなタイトルのインパクトに比べて、とても穏やかなアルバムだな、というのが、聴いた第一印象だった。それはこれまでのPerfumeの作品と比べて、ということでもあるし、この国の第一線を走るポップ・アーティストの待ちに待った新作として、ということでもある。


2007年のシングル『ポリリズム』でPerfumeがブレイクしたとき、Perfumeは当時の音楽シーンにとって強烈なカウンターだった。中田ヤスタカによる通をも唸らせるエレクトロ・サウンド、エフェクト処理された無機質なボーカル、サウンドをそのまんまデフォルメして具現化したような奇妙なダンス、クールなステージングと対照的なゆるすぎるMC、すべてが新しくて刺激的だった。自分が2008年の『ROCK IN JAPAN FESTIVAL』ではじめてPerfumeのステージを見たとき、1万人超のロック・ファンを相手に堂々のパフォーマンスで盛り上げる様は、痛快のひと言だった。それまでロック・フェスで体験したことのなかった新鮮な興奮が、Perfumeのステージには確かにあった。

ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2008 8/2 Perfume クイックレポート

あれから4年。ヒット作を連発し、ロック・フェスの常連となり、東京ドームをソールドアウトさせたPerfumeが、2011年の音楽シーンにおいて“強烈なカウンター”であるとは、もう言えないだろう。ではシーンの王道になったのかと言えば、そうでもない。Perfumeの存在は現在の音楽シーンに大きな影響を与えたが、ではPerfumeのフォーマットを踏襲し、Perfume的な売り出し方をすることで、Perfumeと同等の成功を手に入れることができたアーティストがいるかというと、いまのところ現れていない。Perfumeは、分かりやすい形でのフォロワーを生まなかった。他の誰にも真似することのできないオリジナリティを保持したまま、音楽シーン、ひいてはお茶の間にまでその存在を浸透させることに成功したのだ。

Perfumeはハイスピードで成長を遂げていった。それは裏を返せば、Perfumeがハイスピードで消費されていった、ということでもある。だから、新作『JPN』に漂う落ち着きっぷりを前にして、穏やかだな、と思うと同時に、実は「うわあ、もしかしてもう成熟に向かっちゃってるのか、それは早いよ」とも思ってしまった。若くして急激に消費し尽くされてしまったアーティストが、自らを守る術として成熟という方向を選ぶことは珍しくないからだ。

だが聴き進めるうちに、これはただの成熟ではないと思い直した。本作に通底する“落ち着き”は、自身を取り巻く急速なスピードから一旦距離を置き、いま立っている足元を確認し、もう一回Perfumeという存在を発信していこう、フレッシュな気持ちでもう一度歩んでいこう、という極めて前向きな意思によるものではないか。『JPN』というタイトルも、日本を背負って立つ、世界に打って出て行く、というよりは、自らの存在を改めて認識し提示しよう、というメッセージに感じるのだ。本作でPerfumeは、時代の先端を行くエッジーな側面よりも、等身大でナチュラルで、地に足のついた姿を見せている。そしてその姿は、どこかどっしりと頼もしいのである。PerfumeがPerfumeであることに対して改めて腹を括った、とでも言おうか。貫禄、というと大げさかもしれないが、Perfumeにこんな頼もしさを感じたのは、もしかしたら初めてかもしれない。


既発音源が多めの内容だが、アルバムミックスを施すなど、シングルをコンプリートしている熱心なファンへの気配りも忘れない。またオープニングを含む新曲5曲も出色の仕上がりだ。曲構成も緻密に練り上げられており、アルバム作品トータルとしてのクオリティは過去作と比べてもトップクラスだと思う。……なんてサラッと書いてしまったが、ここまでクオリティの高い作品をきちんと届けることができるというのは、誰にでもできることではない。こういう真摯な作品を作り続ける限り、これからも流行やトレンドといった目に見えないなにかに、Perfumeが消費し尽くされることはないだろう。

年末には『紅白歌合戦』に出場、そして来年には本作を引っさげ初の全国アリーナツアーを開催と、またしてもハイスピードでシーンを駆け抜けていくPerfume。だがその前に、まずは久しぶりに届けられた『JPN』というアルバムを、時間をかけてじっくりと噛みしめたい。

 



Perfume NEW ALBUM 『JPN』発売中 
2,800円
※画像は通常盤

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