ペーター・コンヴィチュニー (c)広瀬克昭 ペーター・コンヴィチュニー (c)広瀬克昭

5月に上演する東京二期会オペラ劇場『マクベス』の演出のために来日中のオペラ演出家、ペーター・コンヴィチュニーが、4月9日、ドイツ文化センター(東京・赤坂)にて講演会を行った。

東京二期会オペラ劇場『マクベス』の公演情報

ドイツの権威あるオペラ専門誌「オーパンヴェルト」の批評家選考で「年間最優秀オペラ演出家」に過去5度も選出されている稀代のオペラ演出家、ペーター・コンヴィチュニー。その演出の特徴は、今ではオペラ界のトレンドのひとつとなった「読み替え」といわれるアプローチだ。音楽と歌詞は原曲に忠実だが、ストーリーや舞台装置を現代風にし、演出家の発想で新しい物語に作り替える手法を用いる。ただ他の演出家と異なるのは、その読み替え方の過激さ。彼が演出を手がける作品は、常に論争を巻き起こすほどで、物語が現代を生きる我々にとってどんな意味をもたらすのか、観客が意識せざるを得なくなるのだ。

今回の講演会では、自身のオペラ演出のコンセプトや、現在のオペラを取り巻く環境などについて語ったコンヴィチュニー。彼のオペラへのアプローチは極めてシンプル。台本に潜む「人と人の関係、個人と社会との関係」に焦点をあてて演出すること、そして作品が初演された当時の観客が受けたセンセーショナルな体験を現代の舞台で再現することだ。「演劇やオペラは非社会的なものであってはならない。それは人々の価値観を創出する装置だ」という自らの信念、スタニスラフスキーやブレヒトにまで遡る演出論についてなど、自身が手がけたオペラ公演の映像を交え、自論を語った。

また現在、世界を取り巻く経済危機が、オペラや芸術文化全般に及ぼす悪影響についても強く危惧しているという。ドイツ国内でも多くのオペラハウスが閉鎖を余儀なくされ、文化的な水準よりも利益が優先されることは、文化にとっての“屈辱”だと熱弁。オペラ演出を通じて、現代社会に問題提起を投げかけ続ける鬼才ならではの、白熱した講義となった。

講演会の最後には、5月に上演する『マクベス』の演出ポイントの一部も明かした。いわく、キーとなる登場人物はズバリ「魔女」。「『マクベス』の悲劇のはじまりは、冒頭に登場する3人の魔女によってもたらされるもの。魔女とは“悪魔と契約を結んだ”とみなされて排除された女性たちの象徴。その魔女たちは、社会から受けた苦しみに対して喜びながら復讐を行う、ストーリーにおける重要な存在になります」と語る。この魔女たちが、どこまで舞台を支配する存在になるのだろうか。本公演が気になるところだ。

ペーター・コンヴィチュニー演出「東京二期会オペラ劇場『マクベス』」は、5月1日(水)~4日(土・祝)に東京文化会館で開催。チケットは発売中。