「ヘンリー四世」 「ヘンリー四世」

蜷川幸雄が演出を手がける彩の国シェイクスピア・シリーズの最新作「ヘンリー四世」が、4月13日、彩の国さいたま芸術劇場で開幕。今回蜷川は、元々第1部、第2部に分かれた2部作を1本の戯曲に凝縮、上演時間4時間超えという大作を完成させた。

「ヘンリー四世」チケット情報

リチャード二世から王位を簒奪し、イングランドの王となったヘンリー四世。しかし国内の貴族の間には王への不満も高まっており、その勢力は次第に力を増していた。一方で自由奔放な日々を謳歌しているのは、ヘンリー四世の世継ぎであるハル王子(松坂桃李)。厚顔無恥の巨漢の騎士・フォルスタッフ(吉田鋼太郎)が、彼の悪友だ。そんな中ついに王に反旗を翻す勢力が決起し、ハル王子も戦線へと赴くことに。さらにフォルスタッフも、王の鎮圧軍に召集されるのだが…。

異色のシェイクスピア作品である。壮大な歴史物でありつつ、喜劇的なコミカルなシーンも満載。友情あり、親子愛あり、男女の愛憎あり。そんな怒濤の展開の末に、衝撃のラストが待つ。ひとつの作品とは思えないほどの多様性で、4時間を超える上演時間もまったく気にならないほど、強く物語世界に引き込まれる。

さらに本作に躍動感を与えているのが、やはりフォルスタッフ役の吉田の存在だ。まん丸の太った体、飲んだくれ、大ボラ吹き。決してヒーローとは言えない人物像だが、吉田が演じるフォルスタッフに、観客の目は釘づけになる。抜群のコメディセンスと、驚くほどの巨漢でありながら、舞台上をところ狭しと駆け回る身体性。のべつまくなしに嘘を並べ立てながら、時に世間を皮肉る視点は驚くほど鋭い。日本を代表するシェイクスピア俳優が、シェイクスピア作品の中でも特に人気の高いキャラクターで、新境地を見せてくれた。

そんなフォルスタッフと人気を二分するのが、松坂演じるハル王子。ハル王子が登場した途端、舞台上にそれまでとはまったく違う、清々しい風が吹き抜ける。それは若さゆえの鮮烈さ、瑞々しさ。俳優として高い注目を集める松坂自身の熱量とも相まって、非常に魅惑的なハルを形作る。だがそれはまだ幼い、放蕩息子としてのハル。そんなハルが後の名君・ヘンリー五世へと歩み始める、その第一歩にも注目したい。

吉田と松坂を取り巻く共演者陣にも、木場勝己や瑳川哲朗、辻萬長、たかお鷹といった蜷川作品常連の巧者たちがそろう。

取材・文:野上瑠美子

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