演劇をやるときに、自分に課しているルールとは?

――基本的なことを改めてお聞きしますが、岡田さんはなぜ演劇をやるようになったんですか?

岡田:流された感じです。大学のときに映画をやりたいと思って入ったのが「映画演劇サークル」で、どちらかと言うと、演劇をやる人の方が多くて。そのまま何となく流されて、演劇の方をやってきたという感じです。

――でも、それが結果的にはよかったわけですね。

岡田:盲目にならずに、疑いを持ちながら演劇に関わることができたので、よかったと思います。

映画のことはいまでも“最高!”と思ってますけど、映画の道に進んでいたら、惚れ込み過ぎて、疑うことをしなったかもしれない。

だから、映画ではなく、演劇の道に進んでよかったと思います。

――岡田さんは、演劇をやるときに自分に課している独自のルールのようなものはありますか?

岡田:観客のためにやるということですね。普通です。観客のためにやるというのは、つまり、さっきも言った“現象”としての作品を作るということです。

“現象”とは、分かりやすい例で言うなら“虹”のようなものです。

虹は物理的な実在があるわけではなく、大気と空中の水分、光の当たり方などのある条件が整ったときに、特定の場所にいる人間だけが見ることのできるものですよね。演劇もそういうものだと僕はとらえています。

――演劇を観慣れていない人は、どうも“演劇は難しそう”という先入観を持っていて、観る前から自分で勝手にハードルを上げているような気がします。

そういった人たちに、岡田さんから演劇の楽しさや楽しみ方、最初はこういうふうに観た方がいいよ、といったことを、今回の『三月の5日間』に絡めて教えてあげてください。

チェルフィッチュ「三月の5日間」撮影:星野洋介

岡田:そこで観たもの、そこで感じたものはすべて真に受けていいんです。それが、演劇を楽しむということなので。

つまり、舞台上のこの人はいまこういう状態になっているんだという解釈をする必要はない。それよりも、自分の中で起こったことはすべて、その作品を観た、その作品から受け取ったものだと思って構わないんです。

そうしないと、演劇を観るのがつまらなくなる。どんどん理屈っぽくなっていきますからね。

『三月の5日間』を面白いと思えるか否かは、その人が自らの“感覚”をちゃんと磨いているかどうか、にかかっている

――どんなふうに観ても、どんなふうに感じても自由ってことですね。

岡田:自由ではないんです。だって、それはすべて作品が与えていることですから。

作品はそれを与えることを狙って作られているし、観客は実はそれを受け取っているわけです。

それを“自由”と思うのは自由ですけど、実はそうじゃない。作り手がデザインしているものですからね。

――観客はそれを観ることで生まれた“何か”を持って帰るということですね。

岡田:“現象”というのは、だから“体験”なんですよね。ただ、どんな演劇でもそんなふうに観ることができますよ、とは僕は言えない。そうじゃないのもたくさんあるのを僕は知ってるので。

でも、『三月の5日間』は自分の感覚を使うことの楽しさを知っている人には楽しんでもらえると思います。でもそういう感覚って、年齢とともに失われていきがちなものではありますよね。

自分の感覚を使うということがよくわからなくなってしまっている人がいるとしたら、そうした人たちにとって、この作品が何ぼのものなのかはよく分からない。そこは自分でも心もとないところです。

つまり、『三月の5日間』を面白いと思えるか否かは、その人が自らの感覚をちゃんと磨いているかどうか、にかかっているということ。

そう書くと、またまた尻込みしちゃう人もいるかもしれないけれど、先入観をなくして、五感をニュートラルにして観て欲しい。

そうすれば、きっと何かを感じたり、岡田さんがデザインした演劇空間の中で自分でも思いがけない“考え”を目覚めさせることになるはずだから。

演劇作家、小説家、チェルフィッチュ主宰:岡田利規(おかだとしき)

1973年横浜生まれ、熊本在住。従来の演劇の概念を覆すとみなされ国内外で注目される。主な受賞歴は、『三月の5日間』にて第49回岸田國士戯曲賞、小説集『わたしたちに許された特別な時間の終わり』にて第2回大江健三郎賞。主な著書に『遡行 変形していくための演劇論』、『現在地』(ともに河出書房新社)などがある。2016年よりドイツ有数の公立劇場のレパートリー作品の演出を3シーズンにわたって務める。

チェルフィッチュ

岡田利規が全作品の脚本と演出を務める演劇カンパニーとして1997年に設立。独特な言葉と身体の関係性を用いた手法が評価され、現代を代表する演劇カンパニーとして国内外で高い注目を集める。2007年『三月の5日間』(第49回岸田國士戯曲賞受賞作品)にて国外進出を果たして以降、世界70都市での上演歴を持つ。近年は、海外のフェスティバルによる委託作品製作の機会も増えており、活動の幅をさらに広げている。

チェルフィッチュ『三月の5日間』リクリエーション

横浜公演 12月1日(金) ~12月20日(水) KAAT神奈川芸術劇場〈大スタジオ〉
豊橋公演   1月27日(土)、28日(日) 穂の国とよはし芸術劇場PLATアートスペース
京都公演 1月30日(火) ~2月4日(日) ロームシアター京都ノースホール
香川公演 2月11日(日)・12日(月・祝) 四国学院大学 ノトススタジオ
名古屋公演 2月16日(金)・17日(土) 愛知県芸術劇場 小ホール
長野公演 2月24日(土)・25日(日) 長野市芸術館 アクトスペース
山口公演 3月10日(土) 山口情報芸術センター[YCAM] スタジオA

映画ライター。独自の輝きを放つ新進の女優と新しい才能を発見することに至福の喜びを感じている。キネマ旬報、日本映画magazine、T.東京ウォーカーなどで執筆。休みの日は温泉(特に秘湯)や銭湯、安くて美味しいレストラン、酒場を求めて旅に出ることが多い。店主やシェフと話すのも最近は楽しみ。

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