左から藤井隆、鵜山仁、鈴木裕樹 左から藤井隆、鵜山仁、鈴木裕樹

1983年の創立以来、井上ひさしの戯曲を専門に上演してきたこまつ座が、99回目の公演として5月に『うかうか三十、ちょろちょろ四十』を上演する。これまでこまつ座で上演されたことがなかった井上の幻のデビュー作だ。満開の桜の下で展開される二十年あまりの物語。その長い年月の変化が凝縮されたこの作品を手がけるのは、井上戯曲を知り尽くした演出家・鵜山仁。主人公のとのさまを演じる藤井隆、鵜山演出作品初参加のD-BOYS鈴木裕樹、そして鵜山に作品の見どころを訊いた。

物語は東北のとある田舎の村はずれを舞台に、美しい村娘に一目ぼれしたとのさまとそのお侍医、娘の夫らを軸に展開する。一見シンプルなストーリーだが、深い魅力を持った本作。

台本を読んだ藤井は 「東北のお国言葉がすごく楽しかったですね。短いお話ではありますが、その間に年数もあっという間に経ちますし、とても濃厚な物語だと思いましたね。でも堅苦しくないから、そこが面白いです」と語る。鈴木も 「不思議な話ですし、面白いですよね。ブラックユーモアともいえるし、人間の深い真理のようなものを感じられる作品だと思います」と続ける。

鵜山は井上戯曲の言葉についてこう話す。「我々の仕事は、音のサービス業みたいなものだから。鈴木くんも藤井さんも地方出身ということで実はそれが強みだぞと思っているに違いない。標準語というスタンダードな音だけじゃなくて、“地”の音が身体の中にある。井上さんもそういう音がほしくて方言で書かれてると思う。音の幅、それはもちろん気持ちの幅だったり人間の幅だったり、宇宙とひびきあうもっと大きな広がりだったり。そういう交信を心がけている感じです」

現在開幕に向けて稽古中だ。鵜山は「稽古初日に言ったんですが、この作品は『芝居がどのくらい人の役に立つか』という芝居だと思うんです。だいたい井上さんはそういう芝居が多いですけど。これで役に立たなかったらごめんなさいというぐらいの作品ですから、皆さんそのつもりでご覧になってください。この芝居がダメだったら演劇の未来はない。とはいえ堅苦しいものではないので、演劇の楽しさを満喫してもらえれば」と力を込めて語った。なお、インタビューの全文はぴあ演劇サイトげきぴあに掲載。

公演は5月8日(水)から6月2日(日)まで東京・紀伊國屋サザンシアター、6月9日(日)に山形・川西町フレンドリープラザ、6月13日(木)に大阪・サンケイホールブリーゼにて上演。チケットは発売中。

取材:釣木文恵