新国立劇場バレエ『シンフォニー・イン・C』第一楽章:米沢唯、菅野英男  撮影:鹿摩隆司 新国立劇場バレエ『シンフォニー・イン・C』第一楽章:米沢唯、菅野英男  撮影:鹿摩隆司

初夏の暖かさに満たされた新国立劇場の稽古場は、間もなく初日を迎える『シンフォニー・イン・C』の通しリハーサルが行われていた。

新国立劇場バレエ「ペンギン・カフェ2013」チケット情報

2010年に絶賛を浴びた『ペンギン・カフェ』と、日本初演のビントレー作品『E=mc2』というトリプル・ビルの冒頭を飾る、ジョージ・バランシンの傑作『シンフォニー・イン・C』は、ダンサーたちが、ビントレーとその素晴らしい作品の数々に出会って、感性と技術を磨き上げ、バレエ団としての資質を極めた集大成といえる。この作品は、1947年7月にパリ・オペラ座が『水晶宮』というタイトルで初演を行ったが、バランシンが自身のバレエ団に作品を持ち帰り、改題、改編を行った。『水晶宮』はエトワールに色を配したチュチュと豪華な装置という煌びやかな舞台であったが、『シンフォニー・イン・C』は、女性は白いチュチュ、男性は黒い衣装のモノトーンという、観客のイマジネーションをかきたてる作品に生まれ変わった。

音楽はビゼーが17歳の時に作曲した交響曲1番で、爽やかさに溢れた旋律が振付けと一体化されて、作品の大きな魅力となっている。1楽章は米沢唯、菅野英男のペアが、華やかなバレエのテクニックを次々と並べながら舞台の空気を温め、2楽章はアレグロのテンポに囲まれた作品の中で、唯一のアダージオ。小野絢子、厚地康雄が、オーボエの音色に乗せた緩やかなムーブメントで情緒溢れる演技を魅せる。3楽章は寺田亜沙子、奥村康祐が、田園風の快活な曲調と同化したような楽しそうな笑顔で、スケルツォのテンポを操り、4楽章は本島美和、マイレン・トレウバエフが後に続くプリンシパルたちを牽引するような流麗なパ・ド・ドウを披露し、群舞との見事なユニゾンで怒涛のようなフィナーレが繰り広げられる。

男性ソリスト4人が跳躍する瞬間は見物だ。厚地康雄は、気品のあるロイヤルスタイル、菅野英男はしなやかだが、勢いのあるロシアンスタイルなど、それぞれの培ってきたバレエのフォルムが瞬時に浮かび上がる。

『シンフォニー・イン・C』は、抽象的で作品がよくわからないという方は、まず劇場の客席に腰を下ろして、心に抱えた荷物を忘れて欲しい。目に入ってくる、シンプルかつ情熱的な光景に必ず引き込まれるはずだ。バランシンの作品は、バレエのレッスンが何故厳しい基礎を繰り返し行うのか、正確なポジションから成り立つ演技の過程と着地点の完成を、舞台で教えてくれるので、ぜひ確かめて欲しい。

新国立劇場バレエ トリプル・ビル「ペンギン・カフェ2013」は4月28日(日)から5月4日(土・祝)まで。チケット発売中。

舞踊ジャーナリスト:高橋恭子