(左から)佐々木誠監督、加藤秀幸

“生まれつき目の見えない視覚障害者が映画監督に挑む!”。こんな無謀に映るチャレンジを収めた1本のドキュメンタリー映画が完成した。タイトルは“内なる映像世界”を意味する『INNERVISION インナーヴィジョン』。なんとも結末が気になる本作での試みについて、手掛けた佐々木誠監督と、本作の主人公である加藤秀幸に話を聞いた。

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障害者を被写体にしたドキュメンタリーは安易な同情を寄せる内容になりがち。ただ、本作はそれらと一線を画する。まさに、そこがこの映画の出発点と佐々木監督は明かす。「今回ご協力いただいた神奈川県視覚障害者情報雇用福祉ネットワーク(略称view-net神奈川)の方から、“視覚障害者=目が見えなくて大変でかわいそう”といったような社会一般にあるイメージを払拭する映画ができないかと打診を受けました。前作『マイノリティとセックスに関する2、3の事例』で障害者の性と、健常者である自分の性を対比したように、世間に漠然とある常識に疑問を持つことで改めて問いを投げるのが僕の信条なので、ならばやってみようと。そのとき、view-netで出会ったのが加藤くんでした」。

ふたりは同い年だったこともあってすぐに意気投合。その中で、出たアイデアが映画作りだった。でも、先天的な視覚障害者の加藤は、そもそも視覚の概念がない。作品は、そんな彼が第一線で活躍する脚本家や映画監督、映像クリエイターのアドバイスを仰ぎながら自らの映画作りを模索していく過程を記録している。今回の体験を加藤は「僕の場合、“映像”は小説などから得た知識や論理から想像するしかない。ただ、今回、さまざまな助言をいただく中で創作意欲を刺激されました。クリアしなければならない点は多い。当初は、映画作りなんて途方もないものでしたけど、今はチャレンジしたいと思っています」と語る。一方、佐々木監督も「僕自身、今回の加藤くんの成長にはびっくり。彼は自分の考えを順序だてて明確かつ論理的に相手に伝えることができる。監督に最も必要な素養を持っていると思います」と手応えを口にする。

この言葉を裏打ちするように、作品を通して見えてくるのは、無限の可能性にほかならない。今回のふたりのチャレンジを見ていると、“視覚がないからこそ描ける映像世界がある”と高らかに宣言しているかのようだ。「ここからすべてがスタートすると思う」と口を揃えるふたり。“視覚障害者は映画を果たして作れるのか?”というテーマに果敢に飛び込んでいった彼らのチャレンジを観てほしい。

『INNERVISION インナーヴィジョン』
公開中

取材・文・写真:水上賢治