(左から)朴美和監督、加藤綾佳監督

“若手女性監督たちに上映の場を”との声から始まった女性監督たちの製作・上映グループ“桃まつり”。参加監督が企画から製作、宣伝、公開までを手掛けてたどり着く彼女たちの上映会は、回を重ねるごとに反響を呼び、現在では女性映像作家たちが才能を開花させる場となっている。今回も百花繚乱、個性豊かな女性監督の作品が揃った。

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今年のテーマは“なみだ”。『へんげ』の主演女優としての熱演が記憶に新しい森田亜紀が『先生を流産させる会』の宮田亜紀を迎えて作り上げた初監督作『雨の日はしおりちゃん家』や、女吸血鬼が成人童貞の純血を求める加藤麻矢監督の異色のヴァンパイア・ムービー『貧血』など、今回は例年以上に多様なラインナップだ。中でも注目したいのは昨年のぴあフィルムフェスティバルで『水槽』が入選した新鋭、加藤綾佳監督の『サヨナラ人魚』。年上の男性と密会を重ねる女の子を主人公にした作品は、不安定な女性の胸中を生々しく描き切る。そこから垣間見えるリアルな女性心理は、特に男性はドキリとさせられるに違いない。また、そこからは女性ならではの感性が立ち昇る。「女性の生々しい感情が出るのは恋愛だと考えている。そこを追究していきたい気持ちはある」と加藤監督は語る。

一方、仙台短編映画祭プロジェクト作品『明日』で、その一編である『ちょうちょ』を発表した新進映像作家、朴美和監督の『いたいのいたいのとんでいけ』は、両親の仲を元に戻そうとする少女の心に寄り添ったドラマで心が揺さぶられる1作。どこかノスタルジックなタイトルと重なるように温かさと哀しみが全体に漂う作品は、言うなれば表には現れない裏に隠れた真意を鋭く射抜き、ひとりの孤独な少女を襲うさまざまな傷、心の中から溢れ出る悲痛な叫びを見事に映し出している。「絵空事ではない自分の身に寄せて考えられる作品をこれからも創っていきたい」と朴監督は力強く語っている。

ほかにも、8ミリフィルム素材をもとにした実験的映像表現が新鮮な印象を残す小口容子監督の『愛のイバラ』、渡辺あい監督による現世とあの世の想いが交差する人間ドラマ『MAGMA』、日常から垣間見える人の生と死を見つめた糠塚まりや監督の『葬式の朝』、かかしとゾンビの恋を描いた岡田まり監督の異色作『東京ハロウィンナイト』など、多士済々。次なるステージを目指す才女たちがそれぞれの感性を爆発させる作品の数々に触れてほしい。

『桃まつり presents なみだ』
公開中

取材・文・写真:水上賢治