新国立劇場オペラ「ナブッコ」(2013年5月) 撮影:三枝近志 新国立劇場オペラ「ナブッコ」(2013年5月) 撮影:三枝近志

イタリアの大作曲家ヴェルディの生誕200周年に新国立劇場が贈る注目の新制作オペラ「ナブッコ」が、5月19日に同劇場オペラパレスで開幕を迎えた。

新国立劇場オペラ「ナブッコ」の公演情報

1842年に初演されたオペラ『ナブッコ』は、旧約聖書の「バビロン捕囚」を題材とした物語で、作曲家ヴェルディ若き日の出世作。初演当時、オーストリアの支配下にあり、小国分立の状態にあったイタリアの統一運動を推進するものとして熱狂的に迎えられ、 合唱曲「ゆけ、わが思いよ、金色の翼にのって」はイタリア第二の国歌とも言われている。

今回の新制作で最も注目なのは、現代を代表するオペラ演出家のひとり、グラハム・ヴィックの演出だろう。「上演する国の社会や文化に根付くかたちで作品を演出すること」に最も心血を注ぐと語るヴィックは、旧約聖書の唯一神の存在が根底となっている『ナブッコ』を「東京のための作品」として大胆に読み替えてみせた。

舞台装置はエルサレムから、高級ブランドショップやアップルストア風の店が並ぶショッピングモールへと化し、ヘブライ人たちはブランドものを身にまとった富裕層に、ナブコドノゾール王率いるバビロニアの軍勢はテロリスト風の集団へと変貌。バビロン捕囚における征服者と被征服者の関係は、貧富の差とそれが巻き起こす暴力への衝動、唯一神への信仰は、人間の力を超越した自然への畏敬の念と解釈できる読み替えで、現代社会に通じるテーマがちりばめられている。

「劇場は舞台との出会いの場であるべき」という信念をもつヴィックは、恐らく観客の反応が賛否両論となることは想定済みのはず。それほど刺激に満ちた、大胆な読み替えだ。ただし本作は、あらゆる観客にとって、作品に抱いていた既成概念を覆し、新作に出会った時のような鮮烈さでもって迫ってくることは確かだろう。

また、この格別際立った演出の魅力を、より一層引き出していたのが音楽面での充実だ。METなどでも『ナブッコ』を指揮し成功を収めたパオロ・カリニャーニのタクトは、非常に精緻なアンサンブルを作り上げ、これぞ正統派ヴェルディ・オペラといえる重厚なサウンドに。歌手陣も、物語のキーパーソン、王女アビガイッレ役のマリアンネ・コルネッティ、ナブッコ役を務めた世界的ヴェルディ歌手のルチオ・ガッロを筆頭に、ハイレベルな歌唱を披露。そして初日公演で最も熱い喝采を浴びたのが、新国立劇場が誇る合唱団だ。演出面での多彩な要求にも応えながら、終止均整のとれた、表現力あふれるハーモニーを披露。最大の聴かせどころである、第3部の「ゆけ、わが思いよ、金色の翼にのって」では、近年ますます高い評価を得る合唱団の真骨頂が如何なく発揮されたといえるだろう。

新国立劇場オペラ「ナブッコ」の残る公演は、5月22日(水)・25日(土)・29日(水)・6月1日(土)・4日(火)の全5回。いずれも新国立劇場オペラパレスにて開催。チケットは発売中。

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