「精神的な修練だった」来日したウォン・カーウァイ『グランド・マスター』を語る

2013.5.23 18:22配信
『グランド・マスター』を手がけたウォン・カーウァイ監督

名匠ウォン・カーウァイが、最新作『グランド・マスター』で描くのは20世紀初頭を生きた中国武術の宗師(グランド・マスター)が歩む激動の半生だ。そこには頂点を目指す彼らの戦いはもちろん、愛、裏切り、復讐、伝承、引き際といった人間ドラマが、中国近代史と寄り添いながら重厚に語られている。中国武術の伝統と精神を重んじながら、まったく新しいアクション大作を生み出したカーウァイ監督が5年ぶりにプロモーション来日を果たし、取材に応じた。

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本作の主人公ともいえる存在が、後にブルース・リーの師匠になった実在の武術家イップ・マンだ。「以前からカンフー映画を撮りたいという思いが強かった反面、それを切り取る新たな視点が見つからなかった。そんなときに出会ったのが、中国近代史の“縮図”ともいえる波乱の人生を歩んだイップ・マンでした」とカーウァイ監督。特に勝敗や栄誉ではなく、技の伝承を責務だと考える精神性に“新たな視点”を感じ取ったという。

いかに過去のカンフー映画と差別化するかという難題には、見た目の派手さよりも、「グランド・マスターたちの精神性とは何か?」と観客に問いかける思想的なアクション演出が必要だった。武術指導にあたるのは、『マトリックス』でも手腕を発揮したユエン・ウーピン。「リアルさはもちろん、武術の精神を受け継ぐ動きにしてほしいと伝えた」(カーウァイ監督)。映像の面では、スローモーションをはじめ、雨や雪といった自然現象を利用し「技が本来もつスピード感や力感、原理を見せたかった。今のカンフー映画はどんどん現実離れする傾向にありますから」と語る。

イップ・マンを演じるトニー・レオンをはじめ、チャン・ツィイー、チャン・チェンらアジアが誇るトップスターが伝統的な中国武術に、文字通り体当たりで挑んだ。「きっと観客はトニー・レオンに武術ができるのか? と疑問に思うでしょう。それは彼自身も同じこと。ですから、まずは自信を持たせることが先決だった」という。「スタントマンやワイヤーアクションを使えば1週間で終わるシーンも、じっくり1か月かけてトニー本人に演じてもらった。撮影初日にいきなり骨折するハプニングもあったが、この作品のために3年間武術のトレーニングを受けてくれた彼には感謝しかありません」。

カーウァイ監督にとっても「人生を変えるほどの撮影だった」という本作。撮影したフィルムは90時間に及び「モチベーションを保つ、というよりは“諦めるか、諦めないか”の選択だけ。まさに精神的な修練だったが、撮りたい気持ちがあったからこそ成し遂げることができた」と誇らしげに語った。映画界の“マスター”が構想17年、撮影に3年を費やした『グランド・マスター』が現代の観客に伝承するスピリットを劇場で体感してほしい。

『グランド・マスター』
5月31日(金)よりTOHOシネマズ 日劇ほか全国ロードショー

取材・文・写真:内田 涼

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