『はじまりのみち』完成披露試写会の模様

木下恵介監督生その他、作品の画像

誕100年記念映画として公開される『はじまりのみち』の完成披露試写会が23日に都内で行なわれ、主演の加瀬亮をはじめ、田中裕子、濱田岳、ユースケ・サンタマリア、原恵一監督が舞台挨拶に登壇。ゲストとして木下監督の実弟である木下忠司氏も来場した。

本作は、劇場版『クレヨンしんちゃん』などで知られる原監督の初の実写作品で、木下監督が新聞に寄稿した戦争末期の思い出を綴ったエッセイを基にした作品。病身の母を疎開させるためにリヤカーに乗せて、60キロもの道のりを進む木下恵介と兄、そして便利屋の旅がユーモアと感動と共に描き出される。

原監督は木下監督を「叙情的なだけでなくロックでパンクなとんでもない人」と評し「木下作品の過激な部分がこの映画にも入っていると思います。ここにいる人たちもみんな、ロックな人たちで『生ぬるいものを作ったら承知しないぞ』という圧に導かれて作りました」と胸を張る。

映画会社に辞表を叩きつけ、故郷へと戻ってきた若き日の木下監督を演じた加瀬は「シンプルに話を聞くと小さな美談のようですが(木下監督が)立ち止まっている時期でもあり、いい面ばかりのわけがないと思ってました。いろんな葛藤の中を歩いている、そういうのが映画に立ち現われていたらいいなと思いながら演じました」と役に込めた思いを口にした。母親役の田中は「私にとってはとても贅沢な時間でした。まずセリフが少なくて、男の子たちがリヤカーで引っ張ってくれる(笑)。リヤカーで見上げる風景は見たことのないもので、大きな木、空に浮かぶ雲、風が吹いたり月が出たり、格別な景色を見せてもらいました」と感慨深げ。息子役を演じたユースケと加瀬については「2人ともハニカミ屋さんで、はにかんだ顔がとってもかわいいんです」と笑顔で語った。

加瀬は「こちらが何も準備しなくとも、自然と気持ちが流れていくようだった」と田中とのシーンを述懐。ユースケは自身の最後の撮影に触れ「ひとりのシーンで川べりで寒い夜の撮影だったんですが、田中さんは自分はとっくに終わってるのに何時間も待っててくれたんです。『頼むから帰ってください』って言ったのに、それでも待っててくださいました」と感激した面持ちで明かし、母と息子たちの絆の強さをうかがわせた。彼らを手伝う便利屋役の濱田は「便利屋は全然バテないし、身体能力が凄い!」と語り、大好きだという原監督作品『河童のクゥと夏休み』に掛けて「後半は河童の気持ちで自分がクゥだと思ってやってました」と語り笑いを誘っていた。

多くの木下作品で音楽を担当した作曲家の木下忠司氏は現在97歳。加瀬に花束を手渡し苦労をねぎらい、観客に向かって「この写真(※活動写真=映画)を愛してください」と語りかけ、会場は温かい拍手に包まれた。

『はじまりのみち』
6月1日(土)ロードショー