石井岳龍監督

最新作『シャニダールの花』の公開を控える石井岳龍監督が24日、東京・松屋銀座で開催中のマミフラワーデザインスクール主催「マミフラワーデザイン展2013」に来場。同校の校長を務める花文化研究家・川崎景介氏を聞き手に、作品の着想やテーマを語った。

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映画はごく限られた女性の胸に咲く“シャニダールの花”をめぐる、幻想的なラブストーリー。シャニダールの花を利用した新薬開発を進める研究所に勤める植物学者の大瀧(綾野剛)が、セラピストの響子(黒木華)と恋に落ちながら、危険な花の魅力にとりつかれていく。

シャニダールとは、ネアンデルタール人の化石が発見されたイランのシャニダール遺跡のこと。埋葬されたネアンデルタール人の骨と一緒に花の化石が発見されたことから、野蛮だったとされる彼らが実際には死者を悼み、花を捧げていたという仮説から「人類の“心”が発生した瞬間だと言われている。花と人間の関係性を語る上で象徴的な事件」(石井監督)。

また、花による新薬開発という設定に「花は薬にも毒にもなる。非常に繊細で神秘的な危うさに惹きつけられる」といい、「何かが発明されるたびに、人間は大切な何かを失っている。その原点が、ネアンデルタール人が死者に捧げたシャニダールの花だと思う」と本作が問いかけるテーマを説明。「今は肉食系、草食系という言葉もあるが、実は植物には静かで強い生命力がある。植物の生き方を通して、生きるヒントにしてもらえれば」と熱弁していた。

人気急上昇中の綾野を主演に迎えた理由は「地に足がついた日常性」だと明かし、「以前はとがり過ぎた印象も受けていたが、綾野君が出演した『カーネーション』で印象が変わった。設定が突飛な分、それを観客に信じてもらえる“日常性”が必要だった」。物語のキーである花が色鮮やかなインパクトを与えるよう「セットや衣装、画面はモノトーンにこだわった」と独特な映像美学の健在ぶりもアピールしていた。

『シャニダールの花』
7月20日(土)テアトル新宿ほかロードショー

取材・文・写真:内田 涼