ワン・ビン監督

山形国際ドキュメンタリー映画祭で2度の大賞に輝くなど、発表する作品が常に国際映画祭で受賞を重ねる中国のワン・ビン監督。ドキュメンタリーのフィールドに留まらず、2010年には初の長編劇映画『無言歌』を発表し、さらなる高い評価を受けた彼は、いまやその動向が注目を集める映画監督のひとりだ。“現代の世界映画の旗手”とも言われる彼に新作『三姉妹〜雲南の子』のこと、自身の創作について聞いた。

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前作から2年を経て発表された今回の新作は、中国の雲南地方で暮らす幼い三姉妹の姿を見つめたドキュメンタリー。三姉妹との出会いは偶然だったという。「ある友人の墓参りに行ったとき、三姉妹の家がそばでたまたま通りかかったのです。家の前で彼女たちは遊んでいたのですが、見るからに面倒を見てくれる人がいないよう。気になって話を聞くと、母は家を出て、父も出稼ぎで不在。10歳の長女、インインが家畜の世話や畑仕事をしながら妹たちの面倒を見ていた。これまで私は作品を通して、さまざまな厳しい現場を見てきました。でも、これほど貧しく生きることがギリギリの生活を見たことはなかった」。

「このときの光景が頭から離れなかった」と監督が語るように作品は、貧困の中で懸命に生きるインインを中心にした姉妹の日常を記録。そこから、経済格差の現実、今も続く一人っ子政策の矛盾など、今の中国社会が抱える問題が透けて見えてくる。ただ、監督は、もうひとつ見逃してほしくないこともあるという。「確かに三姉妹の置かれた状況は過酷です。ただ、その厳しい現実に彼女たちは決して負けていない。今を生き抜こうとしている。今考えると、彼女たちから溢れ出る力強い生命力、その眩いばかりのいのちの輝きに、私はずっと魅せられていた気がします」。

こうしたワン・ビン監督ならではの眼差しが光る作品は、大きな問いを投げかけるとともに深い感動を呼び、過去の作品同様に高い評価を受け、ベネチア国際映画祭オリゾンティ部門グランプリ、ナント三大陸映画祭グランプリをはじめ数々の映画賞を受賞した。世界的評価がさらに高まった彼だが、今後の創作活動をこう見据える。「ひと昔前の中国、私の父や母の世代には選択肢はなく、ひとつの方向に進むしかなかった。でも、今は経済、社会ともにかなりの開放が進み、私たちの世代は選択の自由を手にしている。誰にも邪魔されることなく自分の自由な発想を自由に表現できる。自らの信念のもと、撮りたいと思うものを撮り続けていこうと思っています」。

『三姉妹〜雲南の子』
5月25日(土)よりシアター・イメージフォーラムほかにてロードショー

取材・文・写真:水上賢治