ブロードウェイミュージカル『HAIR』 ブロードウェイミュージカル『HAIR』

1967年に産声をあげてから、その革新的なパフォーマンスによって、その後のミュージカルに決定的な影響を与え、数多くのフォロアーを生み出してきた『HAIR』。40周年を契機に、装いも新たな演出で華麗に復活、2009年のトニー賞では最優秀リバイバル作品賞に輝いたこの傑作がついに日本に上陸。5月29日、東急シアターオーブで幕を開けた。これまで日本語版は3度上演されているが、本場ブロードウェイの舞台がそのままやって来るのは、これが初めてのこと。

ブロードウェイミュージカル『HAIR』チケット情報

1967年、ニューヨーク。若者の街イースト・ヴィレッジを舞台に、あるヒッピー青年たちのグルーブの姿がグラフィティ・スタイルで活写される。ベトナム戦争真っただ中、デモや集会などの反戦運動によって、己の意志とアイデンティティを証明しようとする彼ら彼女ら。そこではドロップアウトもまた、ライフスタイルの選択のひとつとして肯定される。フリー・セックス、ドラッグ、思想……カウンター・カルチャーに身を投じ、高揚と瞑想の青春を謳歌する青年たちはけれども、仲間のひとりに届いた召集令状によって否応なく傷つき、精神的に痛めつけられていく。

幾度となく客席に降り立ち、通路を駆け抜けることで、時代のうねりを体現する俳優たち。ドラマではなく歌によって存在を表現し、安易に肩を組み連帯するのではなく、ときにぶつかり合いながらも、同じ対象=アメリカを見つめるまなざしの強度によって共闘する主人公たちのありようは、カラフルなエナジーにあふれている。過酷で絶望的な状況下だからこそ、ひるむことなく、諦めることなく、失うことすらおそれずにぶつかっていくその生き様は、アメリカも日本も出口の見えない21世紀を生きざるをえないからこそ、痛烈に響く。

『HAIR』とはヘアー、言うまでもなく髪の毛のことだが、ヘアスタイルによって個の主張を表明できる時代の象徴でもある。登場人物たちは決して徒党を組んでいるわけではない。たとえば、ひとりの黒人女性は「白人男性が好き」と熱唱する。それは単に好みの問題ではなく、黒人、白人双方からバッシングされるのを覚悟の上での、タブーへのダイヴ。長いものに巻かれ、横並びをよしとする保守的な風潮を打破しようとする果敢な個の叫びがあるからこそ、このミュージカルには普遍的な息吹きがあり、語り継がれてきたのだ。

フィナーレでは観客を舞台にあげて、共にダンスする粋な演出も。アメリカ文化の底力がみなぎる、パワフルなステージングだ。6月9日(日)まで。チケット発売中。

取材・文:相田冬二