『リアル〜完全なる首長竜の日〜』を手がけた黒沢清監督

黒沢清監督の5年ぶりとなる劇映画『リアル〜完全なる首長竜の日〜』が公開される。原作は第9回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞した乾緑郎氏のベストセラー小説。ある青年が、自殺未遂した恋人の意識下にダイブし、こん睡状態から目覚めさせようと奮闘するSFサスペンスであり、若手トップクラスの人気を誇る佐藤健と綾瀬はるかが極限の愛を体現するラブストーリーだ。「映画で人の心の中を撮影することはできない」と公言する黒沢監督にとって、目には見えない意識下のビジュアル化はいかなる挑戦だったのか。

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「原作は大変面白かったが、映像化は難しいなと思った」といい、自ら脚本化する際も「このシーンは意識下なのか、それとも現実なのか。自分でも混乱しながら、その区別には神経を使っていた」と振り返る。撮影が始まったばかりのタイミングでは、佐藤らキャスト陣も、今自分がどちらの状況に置かれているのか戸惑いがあったそうだ。また、「キャメラは現実をそのまま切り取る」という原則に則り、佐藤と綾瀬がベッドに横たわる“現実”のシーンも数多く撮影した。「物語の構造上、そもそも『リアル』というタイトルにも違和感があった」(黒沢監督)。

そんなある種の閉塞状態を打破したのが、佐藤と綾瀬の生々しい、文字通りリアルな演技だった。「直面するトラブルに対し、どう対処し乗り越えていくか。それを演じる俳優にとっては意識下だろうが、現実だろうがまったく同じだと気づかされた。そんなリアルを目の当たりにし、監督としても思ったほど神経質になる必要はないなと。さっき言ったベッドに横たわるシーンも、結果的にはほとんど要らなかった」。

タイトルへの違和感も消え「今は『リアル』という潔さが気に入っている」という。持ち味のひとつである“映画の気持ちいいデタラメ”を随所に散りばめながら、意識下/現実の区別から解放されたことで、映画とリアルの新たな関係性にたどり着いた黒沢監督。完成した作品に対し「一種のファンタジーとして捉え、あえて物語に正解やルールを持ち込む必要がないと改めてわかった。大切なのはお客さんが、主人公の気持ちに寄り添えるか。映画が描く出来事すべてがリアルなんだと感じてもらえれば」と自信を示した。

特に観てほしいのは、若い世代だといい「他人と映画を観る体験そのものが、新鮮なコミュニケーションになるはず。それに映画というメディアは常に若々しくあるべきで、そのためには若い人の意見が必要。そうでなければ、映画の存在価値はなくなってしまう」。本作は、映画を首長竜のように絶滅させまいという黒沢清監督の静かな決意表明でもある。

『リアル〜完全なる首長竜の日〜』
6月1日(土)より全国東宝系ロードショー

取材・文・写真:内田 涼

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