花澤香菜

時に“angelic voice(天使の声)”とも称される魅惑的な声で高い人気を誇る声優・花澤香菜。まもなく公開となる新海誠監督最新作『言の葉の庭』では主人公がほのかな恋心を抱く年上の女性役で新たな境地を開いた。映画の公開を前に本作に込めた思いを語ってくれた。

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靴職人を目指す高校生のタカオと人生を見失ったユキノ。雨の日の午前だけ、約束もせぬままに庭園での逢瀬を重ねるようになった2人が惹かれ合っていくさまを静かに描き出す。

元々、新海監督の『秒速5センチメートル』が大好きだったという花澤。新作と聞いてすぐにオーディションへの参加を決めたが、ユキノは27歳という設定。これまで10代の少女の声を中心に演じてきた彼女にとっては未知なるチャレンジだった。「年齢もそうなんですが、こういう作品――新海監督の作品の魅力だとも思うんですが――日常をこれほど細かく描いていて、セリフも普段の自分が使いそうな言葉ばかりという作品自体があまりないので、そうした違いは強く感じてました。とにかくユキノに共感して彼女の目線で物語をずっと追いかけていたので、演じながらもどこかで等身大の私の気持ちと重なっているところはあったと思います」。

本作を経て、ひとつ上のステージへ踏み出したという実感は? と尋ねると「時間が経ってないのでまだ分からないです…」と照れくさそうに首をすくめる。だがこれまでとの役柄の違いが、先の「等身大」という言葉にもあるようにアプローチにおいても大きな変化として表れていたよう。「ずっと何かが引っかかっている心理状態が細かく描いているというのもあって、自分の内面の暗い部分を引っ張り出した作品だったなと思います。新海監督にアフレコの後でお会いしたら『花澤さん、そんなに元気なコだったっけ?』って言われましたからね(笑)。ユキノが気怠さを漂わせながら電話で話してるシーンなんかは、これまでに見せたことのない自分の中の一面だなと感じます」と明かす。

「舞台になった庭園を歩いてみたんですが、本当に誰かと出会ってしまうそうな気になるんですよ。そんな偶然が自分の近くにも転がってるんじゃないかという期待は持ち歩いてます(笑)」と花澤。「いまはただ、素直にこの作品に出会えて、関われたことが嬉しい」。人々の目に触れるときが来るのが待ちきれないといった笑みを浮かべて静かにうなずいた。

『言の葉の庭』
公開中

取材・文:黒豆直樹
写真:源賀津己