『オブリビオン』を手がけたジョセフ・コシンスキー監督

トム・クルーズ主演作『オブリビオン』が本日より公開されている。本作は壮大なスケールで描かれる衝撃のドラマが魅力の作品だが、原作と監督を手がけたジョセフ・コシンスキーは「普遍的な物語を語りたかった」という。来日時に話を聞いた。

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本作は、エイリアンの攻撃を受けた人類が地球を放棄して他の惑星で暮らしている2077年を舞台に、記憶を失うも、なぜか地球に残って遥か上空から地球を監視し続けている男ジャック(トム・クルーズ)が、墜落した宇宙船で眠っていた美女ジュリア(オルガ・キュリレンコ)を発見したことから、自身と地球の運命を揺るがす壮大な謎に巻き込まれていく様を描いる。

コシンスキー監督は『トロン:レガシー』で注目を集めた新鋭で、映像美が高評価を集めている。しかし彼は「この映画は大勢の人を魅了する作品にしたいと最初から考えていましたし、普遍的なテーマ、たとえば“人間とは一体、何なのか?”、“なぜ私たちはここに存在しているのか?”など、誰もが知りたくなるような問いを投げかけたいと思った」と振り返る。

そこで監督は、すべてが朽ちてしまった地球と、それを監視するスカイタワーを描き出した。「スカイタワーはとても清潔で主人公の記憶が一切ないことに対応しています。そして朽ちた地球は、消えてしまった彼の記憶の象徴です。ジャックの頭の中をふたつの世界を使って表現したいと思いました」。主人公は雲の上と下を何度も行き来しながら、自身の過去と運命に向き合う。観賞しながら少し話が複雑に感じた時は“いま、主人公はどこにいるのか?”を考えると少し理解が進むかもしれない。

さらに本作のドラマを象徴するアイテムが劇中に登場する。それはアメリカの画家アンドリュー・ワイエスが描いた『クリスティーナの世界』という絵画だ。この絵はひとりの女性が遠くに建つ家屋をじっと見つめている場面をとらえたもので、ワイエスが実在の女性クリスティーナに出会ったことから描かれた。「とても好きな絵画ですし、物語の舞台になっているニューヨークの近代美術館(MoMA)に所蔵されているので登場させました」。

病弱で限られたエリアでしか暮らすことができなかったワイエスは、病で足が不自由ながら強い生命力を発揮するクリスティーナに心を打たれたという。私たちは限られた空間の限られた可能性の中でしか生きることができない。しかし、人間は限定された世界の中で、自らの運命に立ち向かい、選択し、自身の進むべき道を見つけ出すことができる。「劇中でジャックとジュリアは“もっとシンプルな世界に戻りたい”と思っています。そのことをあの絵は象徴していると思います」。本作は、壮大なスケールと謎に満ちたドラマに圧倒される作品だが、観賞中に少し迷ったときは、劇中に登場する絵画の行方も、ドラマを読み解くヒントになるのではないだろうか。

『オブリビオン』
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