みなさん、幻の酒「ホイス」というものをご存知ですか?
まるで都市伝説のごとく、ささやかれるお酒……。
私も名前しか知らなかったのですが、あるフレンチの有名シェフからお誘いをいただき、数少ないホイスが飲めるお店に行ってきました。

さっそくですが、これがホイスです。

   

 

 







おそるおそる口をつけましたが、思いのほかクセがなくて飲みやすい。

ホイスの原液に焼酎と炭酸を混ぜて出てきます。そう、酎ハイの元祖みたいなものです。作っているのは東京・港区白金の後藤商店。でもこの会社にサイトはありません。高級住宅街の中で作られているという噂もあります……。

お店の人の話や各種文献によると、同社の創業者が戦後、劣悪な焼酎に代わるものとしてさまざまな薬草やリキュール、ワインなどを混ぜて作ったもので、ウイスキーをもじってホイスキー、縮めて「ホイス」となったようです。原液だけ飲ませていただきましたが、どこかシェリーみたいなドライな味がします。小売をしていないので、東京都内の数店でしか出会うことができません。

かんじんのお店は恵比寿にある「田吾作」さん。この地で55年続いている老舗のやきとり屋です。シェフのおかげで常連専用というカウンターに座れました。こういう場合、一番大事なのは注文を詳しい人にまかせること。ではシェフ、お願いします。

「まず、塩でカシラ、シロ、ネギ、つくねちょうだい」











濃くてわかりやすいウマさ。ホイスにぴったり。あっという間に食べてしまいます。

「次はタレで鳥、ピーマン、つくね、シロ、テッポウね」



 







そして「大木さん、これ面白い食べ方があるから」と言うやいなや、シェフはピーマンとつくねを串から外します。つくねにカラシをのせ、上からピーマンをかぶせます。
「ほら、ピーマンの肉詰め!」











おお! 確かにうまいっす。

ホイスをおかわり。まだまだ行きます。
「じゃあ味噌で、鳥、テッポウ、レバー、それからよく焼きでネギもね」




 






「よく焼きですか?」
「そう、ここ焼けるの早いでしょう?」
たしかに注文すると驚きの早さで出てきます。事前に焼いているのかと思うほど。
「いや、肉が薄いんですよ。だから食べやすいしね。でも野菜は厚みがあるから、よく焼いてもらったほうがいいんだよね」
なるほど。それにしてもこのシェフとはよく食事を共にしますが、とにかく注文の仕方が上手。文章にすると、同じものばかり頼んでいるように見えますが、彼はその店のおいしいもの、飲み物に合うものだけを的確に注文します。ムダが無いのでやたらと値段が張ることが無いのです。みなさんもちょっと意識してみてください。

お店も混んできたのでお会計。やきとりは一本135円、ホイスは400円。ふたりで6380円でした。気のおけない仲間とふらっと行くにはたまらないお店です。ちなみにホイスのアルコール度数はビール程度とのことなので、グイグイいっちゃってください!


【店舗情報】
恵比寿「田吾作」
住所:東京都渋谷区恵比寿西1-1-3 恵比寿第一ビルB1F~2F
営業時間:17時~23時/16時30分~22時30分(土曜)
日曜休
 

1965年東京生まれ。ぴあ株式会社グルメ統括プロデューサー兼『東京最高のレストラン』編集長。主な編集作に『いまどき真っ当な料理店』(田中康夫)、『一食入魂』(小山薫堂)、『宮部みゆきの江戸レシピ』、『行列レストランのまかないレシピ』(森脇慶子)など。2001年にプロによる完全実名評価本「東京最高のレストラン」を創刊。