新国立劇場オペラ「夜叉ヶ池」制作発表より 新国立劇場オペラ「夜叉ヶ池」制作発表より

新国立劇場、3年ぶりの新制作オペラ『夜叉ヶ池』の制作発表が、5月28日に同劇場で行われた。

新国立劇場オペラ「夜叉ヶ池」の公演情報

日本人作曲家によるオペラ作品の上演を重大な使命のひとつとし、1997年の開場以来ほぼ毎シーズン、和製オペラを上演してきた新国立劇場。2012/2013シーズンは、歌曲を中心に美しいメロディの作品に定評のある香月修の作曲、泉鏡花原作の『夜叉ヶ池』を世界初演する。

制作発表では、まず芸術監督の尾高忠明が「夢のような日です」と挨拶。「日本のオペラが世界で認められるためには、世界の劇場でレパートリーになる日本のオペラ作品がなくてはならない。香月さんは、僕と桐朋学園時代からの同級生。高校3年のとき、僕が与ひょう、井上道義が惣ど役で『夕鶴』の芝居をやった際、彼に音楽をお願いしたのですが、すごく綺麗な曲が出来上がったんです。それから約30年、新国立劇場の新制作オペラの話があがった際、彼が引き受けてくれたら!と思い、お願いしました」と待望の新制作への思いを語った。

『夜叉ヶ池』のオペラ化を35年前から考えていたと語るのは、作曲の香月修。「創作委嘱の話を頂いたのが今から4年前。それから台本に半年、ボーカルスコアに2年、オーケストレーションに9か月を要して、完成しました。ストーリー、多彩な登場人物など理由はたくさんありますが、『夜叉ヶ池』は絶対にオペラに出来ると確信していました。目指したのは歌心のあるオペラ。親しみやすく、思わず歌いたくなるような作品がコンセプトです。泉鏡花の原作にも手を加えていますが、新たなオペラ作品として楽しんでもらいたいです」と期待を寄せる。

詩情豊かなメロディが特徴の香月作品とは「高校時代に出会って、その美しさに感動した」と語る指揮の十束尚宏。「今回、尾高先生から指揮の話を頂いて、本当に嬉しく思いました。恩師の尾高先生は、結婚式の仲人もして頂き、今回も貴重な機会を与えてくださり、感謝しています(笑)。また演出の岩田先生とは、2年前にも妖怪が登場する舞台で共演しました。とても美しく、幻想的な舞台だったので、今回も楽しみです」と意気込みを語る。

人間界と異界が交差する泉鏡花の戯曲に挑むのは、演出の岩田達宗。「今年は、泉鏡花の『夜叉ヶ池』誕生から100年。『夜叉ヶ池』は“鐘”についての物語。人間は、自分たちよりも優れたもの、目に見えないものと共存していることを忘れ、想像力や寛容の心を失えば、自滅することになるという話です。1913年は、第一次世界大戦の前年。不穏な年に書かれた泉鏡花の警鐘が、100年経った今なお生きているのだと感じています」と、作品の持つメッセージについて触れた。

会見の最後には、百合役の幸田浩子と晃役の望月哲也が、第1幕冒頭「百合と晃の二重唱」を披露。泉鏡花の幻想世界へと引き込むような哀愁を帯びた美しい旋律に、出席者たちは耳を傾けた。

新国立劇場オペラ「夜叉ヶ池」は、6月25日(水)から30日(日)まで新国立劇場 中劇場で開催(全5回)。チケットは発売中。