食べ放題は「安かろう、まずかろう」?

14歳のとき、家の近くに焼肉バイキングの店ができた。物珍しさもあり、1,000円札を握りしめ、生まれて初めてバイキングを体験した。

カルビ、ロース、牛タン、ソーセージ、野菜、ポテトサラダ、マカロニサラダ、卵スープはもちろん、ショートケーキやシュークリームなどもカウンターに並んでいた。

何をどれだけ食べても1,000円。けれど、肉は噛み切れず。ショートケーキは貧弱で旨くもなんともなかった。

肉の大半は凍っていたし、料理の大半はできあいのものに違いない、と子ども心に感じてしまった。「安かろう、まずかろう」を14歳で悟ったわけです。以来、「バイキング」「食べ放題」の看板には近づかないようにしてきた。

ところが、3,700円(※2018年1月より3,200円)で肉を食べ放題できる店が新宿にあることを知り、興味を覚えた。ネットで調べたところ、牛肉だけでなく、イベリコ豚、羊、鹿肉などもあるようだ。

1,000円だったら目もくれないけど、3,700円ならそこそこ原価をかけているのではないか、と思ったわけです。

「この◯◯は私が作りました」「えっ? できあいじゃないの?」

「300B ONE 新宿店」に行ってみると、食材や料理がカウンターに並んでいませんでした。食べ放題の店には食材や料理がカウンターに置いてあるものだと、14歳のときの苦い経験から、長年そう思い込んできた。ところが、この店には食材や料理が用意されたカウンターがありませんでした。

「いらっしゃいませ。前菜、サラダ、リブロースのスターターを召し上がっていただいたあと、メニューにあるものをご注文ください。2時間制で、LOはその30分前です」とスタッフのひとり、竹沢美優(みゆ)さんが説明してくれた。

テーブルに用意されたロースターで各自が肉を焼くスタイル。肉はひとり約100グラム。人数分のサイズにカットされた生肉が届く。

この日の前菜は牛すじの煮込み。これにパンが付く。牛すじは柔らかくなるまで2時間近く煮込まなければならない。バイキングの店なら、できあいのものを仕入れているはずなので、温めればすぐにサービスできる。食べ放題だったら、パンも既製品に違いない、と勝手に解釈したわけです。ところが。

「このパンは私が店で焼いています」

我が耳を疑い、思わず聞き直した。「えっ? できあいじゃないの?」「これはちぎりパンと呼ばれるパンで、私の手作りです。牛すじも厨房で煮込んでいます」

前菜に限らず、ドレッシングもステーキソースも自家製。自分たちで作れるものは、できる限り手作りしていると、竹沢さんは教えてくれた。

肉はブロックで仕入れ、すじなどを掃除する。そのすじ肉でカレーを仕込む。スターターに登場したリブロースは、ただ切っただけではなかった。オリーブオイル、ニンニク、塩コショウでマリネしたものを提供している。 これを自分たちで焼くことでイベント的な楽しみも味わえる。
 


好みの焼き加減に焼いたら、ハサミで切り分ける。牛肉はアメリカ産。マリネしてあるので旨いし、赤身肉なので歯ごたえもある。

スターターを完食したので、肉をオーダーすることにした。