西郷吉之助/西郷隆盛役の鈴木亮平

 2018年の大河ドラマ「西郷(せご)どん」は、林真理子氏の小説を原作に、二度の島流しと三度の結婚を経て、明治維新を成し遂げた幕末の英雄・西郷隆盛の激動の生涯を描く。主人公・西郷吉之助(隆盛)を演じるのは、大河ドラマ初出演となる鈴木亮平。男性からも女性からも愛された西郷という人物の魅力や、演じるに当たっての意気込みを語ってくれた。

-西郷隆盛の魅力とは何でしょうか。

 クランクイン前、西郷さんについて勉強する中で、非常に人間力のある方だなという印象を受けました。目の前にいる人の痛みを自分の痛みのように感じる…。僕はそれを“共感力”と呼んでいます。若い頃は、困っている農民や貧窮している武士のことを考え、それが後々交渉の場でも発揮されるようになると、相手の苦しい立場を理解した上で判断を下すことができる。江戸の無血開城などもそうです。そういう人間性が何よりも西郷さんの魅力なのだと思います。そしてもう一つが“行動力”。一人で相手のところに乗り込み、話し合いをして帰ってくるような行動力は素晴らしいです。

-演じてみた感想は?

 今はまだ“吉之助”と呼ばれた20代の西郷さんを演じているところですが、実際に演じてみると、思った以上に未熟な印象です。その未熟な吉之助さんが、これからいろいろなことを経験して人間力の高い人物に成長していくことを想像して、ワクワクしているところです。

-西郷を演じる上で大事にしていることは?

 一番は、相手の気持ちに寄り添うということです。困っている人や悲しんでいる人など、目の前の人を愛し、相手の立場になる。だから、武士というとどっしりとしたイメージがありますが、この西郷さんは体の大きさの割にはよく泣く、繊細な男です。演出家の方からは、完璧な人間でなくていいので、若さ故の突っ走る部分を恐れずに、といわれています。

-“薩摩男”は現代の“草食男子”の対極に位置する男性像ですが、そのあたりはどのように演じようと思っていますか。

 “薩摩隼人”といわれる薩摩の男たちは、江戸時代を通して戦国時代の気風を守り続けていたと聞きます。その一方で、歴史考証の先生に聞いたところ、当時の武士の間では“泣く”ことが男らしさの対極にある行為とは捉えられていなかったそうです。感動して泣いたり、悔しくて泣いたりすることが、ある種の美徳だったと。そういうお話を聞くと、必ずしも僕たちが思う“男らしさ=武士”ではないような気がして、“男らしさ”にはあまりこだわらず、“人間くささ”という部分を意識しながら演じています。

-やや意外な感じがしますね。

 ただ、西郷さんの周りにいる大山格之助(北村有起哉)さんや有馬新七(増田修一朗)さんは、後々突っ走るような行動を取りますから、いろいろな人間がいるということでは、今と同じだと思います。そういう意味では、吉之助さんは当時としては草食系寄りかもしれません。鹿児島の歴史学者の方も、「西郷さんは女性的な繊細さを兼ね備えた人で、当時の薩摩の武士としては珍しい」とおっしゃっていましたから。

-幕末は、日本の歴史の中でも熱量の高い時代ですが、その熱量をどのように表現しようと思っていますか。

 当時の「黒船が来た!」という外国の列強に脅かされている状況を、どうやったら実感できるかを考えてみました。そうして思い付いたのが、「エイリアンが侵略してくる」というタイプの映画です。「突然、圧倒的な力を持つ巨大な宇宙船が東京上空に現れた! どうにかしないと、地球はエイリアンに支配されてしまう。どげんかせんといかん!」と。そういう危機感を想像しながらやっています(笑)。

-西郷は生涯で三度、結婚するそうですが、西郷を巡る女性たちの見どころは?

 最初の奥さんとは、ほとんど夫婦らしい生活もないまま別れていて、記録にも残っていないのですが、今回はその奥さんとのこともしっかり描かれるので、楽しみにしていただきたいです。また、篤姫さまとの関係が恋といえるような、いえないような、微妙な感じになっています。北川景子さんがおてんばな篤姫さまをとてもチャーミングに演じられているので、これから一緒にどんなお芝居ができるのか楽しみです。

-脚本を担当するのは、鈴木さんも出演した「花子とアン」(14)の中園ミホさんですが、今回発見した中園さんの脚本の魅力を教えてください。

 グッとくるせりふが多いです。特に、自分のせりふよりも言われる方に。(島津)斉彬(渡辺謙)さんの言葉、赤山(靱負/沢村一樹)先生の言葉…。吉之助さんに向けた言葉の一つ一つが強烈なので、今はそのせりふをノートに書き留めているところです。クランクアップを迎える頃、こうやって吉之助さんは人から影響を受けてきたんだ、と見返せるものになればいいなと思っています。

-クランクアップが楽しみですね。

 それともう一つ。男の社会が舞台ですが、主従の関係や親友同士の関係を、男女の恋愛のように描いているんです。そのせいか、男性が書くものより濃い人間関係になっているように感じます。それが、“男が男にほれる”という当時の薩摩の気風とマッチしているような気がして、演じがいがあります。先日、瑛太くんと共演したシーンでも、僕は(大久保)正助さんに対してこんなに愛情を感じているんだと気付かされたことがありました。

-このドラマでは、失敗を繰り返しながら成長していく西郷を描くそうですが、私たちが生きる上でのヒントにもなりそうですね。

 吉之助さんは、生まれた時から“当たって砕けろ”の精神を持ち、考えるよりも先に行動する人です。その行動力には憧れます。僕も日ごろからそうありたいと思っていますが、リスクや自分が傷つくことを恐れて、動けないことが多々ありました。でも、動かなければ見えてこない世界があり、動かなければ出会えない人もたくさんいます。それが後々、西郷さんの財産になっていくので、無鉄砲でもいいから当たってみることが大事だということを吉之助さんの姿から学んでいます。それは今の社会でも同じだと思います。僕は今、30代ですが、その熱さや勢いのようなものは、ずっと忘れずに持っていたいと思います。

(取材・文/井上健一)

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