『クソすばらしいこの世界』を手がけた朝倉加葉子監督

日本人監督が手作品の画像

がけるスラッシャー・ホラー映画『クソすばらしいこの世界』が8日(土)から公開される。激しいバイオレンス描写に息をのむ1作だが、本作を手がけた朝倉加葉子監督は「小さい頃はホラー映画を観るのが苦手だった」と語る穏やかな女性だ。本作はどのような経緯で生まれたのだろうか?

朝倉監督は、テレビ番組のADや自主映画の助監督などを経て、2007年に初監督作を手がけた新鋭。本作は長編デビュー作となるが、容赦のないバイオレンスをスクリーンに描き出す頼もしい存在だ。しかし、朝倉監督は「小さい頃は本当に怖いものが苦手だった」という。「暗い場所がダメというレベルでした。だから、怖い話もダメで、うっかり見ちゃうと思い出して2日ぐらい具合が悪いかったですね」。

朝倉監督は「私は子供の頃からホラーを浴びるように観てきたわけではないので、いつも心のどこかに“にわかホラー好き”という気持ちがある」という。だからこそ監督はスラッシャー(殺人鬼が登場する映画)の構造やエンターテイメント性を研究した上で自身のカラーを出そうとしている。「ホラーやスラッシャーの“映画の作られ方”が好きなんです。話の転がし方も自由だし、観客の楽しみ方も自由です」。そこで本作はアメリカが撮影地に選ばれた。「そこで住んでいる人が感じるリアルな風景と違って、旅行者だから感じられる甘さってありますよね? 舞台がフランスだったら普通の恋愛映画でも見ちゃうけど、東京だったら急に映画としての面白さが減ることがあると思うんです。だからアメリカを舞台にすることで、変な情報を遮断できる効果があったと思います」。

映画は、アメリカの田舎町にキャンプに出かけたアジア人留学生グループが主人公。彼らは当然のように浮かれ、当然のように騒ぎ、そこへ殺人と強盗を生業にしている凶暴な白人兄弟がやってくる。舞台を日本ではない場所に置き、アジア人キャストを混成で起用することで「設定は少しだけ変化球ですけど、あえて純粋なホラー、純粋なスラッシャー映画を目指しました」。

しかし本作は残酷な描写だけでなく、異国の地に放り込まれた恐怖や、集団の中での疎外感、そして何よりも違和感を感じながらその場に居続けなければならないことの嫌悪感が描かれている。「自分はいつもホラーの枠の中でどのように話を転がすことができるのか挑戦したいと思ってます。でも、ホラー映画の生粋のファンではない“血の薄さ”があるのか、どうしても人間関係の怖さとか感情で物語が動く場面が出てきてしまうのかもしれないです。あまり意識してないんですけど」。

ホラー映画の構造を研究し、不純物を排して描く”計算された恐怖”と、なぜか刻まれてしまう“意識しない恐怖”。ジャンル映画の魅力を保ちながら、独自のカラーを放つ朝倉監督の今後に注目したい。

『クソすばらしいこの世界』
6月8日(土)よりポレポレ東中野にて3週間限定レイトショー