『朗読劇 私の頭の中の消しゴム 5th letter』 『朗読劇 私の頭の中の消しゴム 5th letter』

今回で5回目を数えることとなった朗読劇『私の頭の中の消しゴム』。公演のたびに会場が涙に包まれるこのシリーズが6月5日、早乙女太一×佐津川愛美ペアによって東京・天王洲 銀河劇場で開幕した。

『朗読劇 私の頭の中の消しゴム 5th letter』チケット情報

2001年に放送されたドラマ『Pure Soul』が海を渡り、『私の頭の中の消しゴム』として韓国で映画化。この作品が日本で再び朗読劇としてよみがえってから早3年。今回は日替わりで10組のカップルがそれぞれの物語を紡ぎ出す。シリーズ初登場の早乙女と、3度目の登板となる佐津川の組み合わせがどんな化学反応を起こすのか、開幕前から話題を呼んでいた。

建築現場で働く浩介と、アパレルメーカーに勤める薫。お互いの第一印象は決していいものではなかったが、次第に惹かれあい、いくつもの問題をふたりで乗り越えて結婚する。しかし楽しい日々もつかの間、薫に病魔が忍び寄る。若年性アルツハイマーに侵された薫の記憶は、消しゴムで消されたように次第に少なくなっていき……。こんなにも切ないラブストーリーを、役者陣は声だけで演じなくてはならない。

白一色の背景のなか、椅子に腰かけた二人。舞台の上にはたったそれだけ。早乙女の落ち着いた声音と、佐津川のハリのある高い声が鮮やかな対比をなして放たれる。早乙女が職場の後輩や上司の台詞を話す部分では、思いがけずコミカルな声色に会場が笑いに包まれた。

ふだんの早乙女といえば舞台狭しと駆け回る印象が強いが、この舞台はほとんど座ったままで進む。しかし彼は、焦ったときは指先をせわしなく動かし、想いを伝えるときは改めて深く座り直し、ときに背もたれにぐっともたれかかり、前のめりになり、足を組み……。座りながらも全身で演技をしていた。

背景のスクリーンに映し出される写真がイマジネーションの手助けをしてくれるが、写真もなく、ふたりの声と表情だけで進む時間にこそ、客席はより前のめりになっているようにみえた。制限が表現の幅を広げていく。同じふたりが演じても、別の日に観ればまた違った印象を受けるだろう。

公演は6月16日(日)まで。2回観劇した方に、お好きな出演者の生写真をプレゼントするキャンペーンも実施中。

取材・文:釣木文恵