“依頼者の嘘”を見破れ!

ここまで述べてきたように、受けてもいい依頼、受けてはいけない依頼の判断ラインは探偵社によってある程度決まっています。しかし悪知恵の働く依頼者がいて、本来の目的や経緯を隠したまま調査させようとする場合もあります。普通の調査依頼と思って受けてみたら犯罪の片棒をかつがされていた‥‥そうならないように、探偵側も依頼者を疑ってかかる必要があるのです。

いくつか嘘のパターンを挙げてみましょう。

【ケース1】 加害者と被害者の入れ替え
妻に暴力を振るっていたら逃げられた。正直に話したら探偵が調べてくれないかもしれない。
→「妻が私の知らないところで不倫して、問い詰めたら逃げてしまいました」

【ケース2】 対象者と知り合いを装う
どうしても女性声優の住所が知りたい。本名や生年月日は分かるけど探偵にストーカーと思われないか心配だ。
→「学生時代のゼミ仲間と久しぶりに同窓会をしたいんですけど、この人の住所が変わっちゃったみたいで‥‥」

【ケース3】 自分に不利な経緯を隠す
夫の浮気を疑って、素人の自分が尾行したらバレてしまった。警戒心を強められているけど、正直に話したら探偵から高い料金を吹っかけられそう。
→「夫はのんびりした性格ですから尾行も簡単だと思います」


探偵は日々舞い込んでくる相談のなかで、こういう人たちの嘘を見抜かなければなりません。態度・話し方・提示してくる資料などから“矛盾”や“違和感”を見つけ出し、場合によっては依頼そのものを断ったりする必要があります。推理小説の探偵と現実の探偵業務がまったく別モノなのはよく知られていますが、こうした場ではむしろ小説のような推理力が問われてきます。

【ケース1】のような依頼者は結構やっかいです。妻子を虐待していても外ヅラだけは良かったりしますので。ちょっとでも不審だと感じたら、メールや電話だけで済まさず、依頼者にご足労願って直接面談することが大切です。そうして依頼に無関係な世間話なども振りつつ、反応を観察します。

たとえば「やたら会話中でこちらの揚げ足を取ってくる」「明らかに他者を見下している」「自分だけは絶対正しいと思っている」。こんなタイプの人は、もし依頼を受けて調査失敗でもしようものなら契約内容を反故にして「着手金も含めて全額返せ!俺にはヤクザの知り合いがいるんだぞ」などと態度を豹変させてきたりもします。抽象的な言い方になってしまいますが、依頼者から“なんとなく嫌な感じ”がしたら、適当な理由を付けて断るに限ります。

【ケース2】はまだ比較的見抜きやすいかもしれません。対象者の氏名をネット検索してみたら声優や地域アイドルが出てきて「ああ、やっぱりな」と事情を察することができます。

似たようなケースで風俗嬢を彼女と偽って所在調査を依頼してくることもあります。この場合、自分は恋人だと言っているわりに「彼女の名前は本名じゃないかもしれません」「なぜか彼女から聞いた誕生日が2つあるんです」など、依頼者の持っている情報がきわめてあやふやです。探偵なら簡単に風俗嬢がらみだと気づけます。どのみち嘘をついてまで赤の他人を調べようというのですから、これも原則お断りします。

【ケース3】は知らずに依頼を受けてしまうと非常に苦労します。なにせ普通のサラリーマンだと思って尾行した相手が、どこの諜報員だよと突っ込みたくなるほど周囲を警戒し、徹底して尾行を撒こうとしてきますので‥‥。幸い、こういう依頼者には共通のパターンがあります。探偵に頼むのは初めてだと言いながら「夫の会社は向かいの喫茶店から見張りやすいですよ」とか「よく帰りに立ち寄る居酒屋は裏にも出口がありますから注意してください」とか、尾行した人間じゃないと知らないようなことまで喋ってしまうのです。

この手の嘘は単に依頼者がお金をケチりたいだけですから、受けたとしても犯罪に繋がるリスクは低めです。嘘を見抜いた上で「警戒している相手の調査はプロでも難易度が高いんですよ」と丁寧に説明して、納得いただければ依頼を受けます。ある程度の報酬上乗せはお願いしますが。

どこで間違えたのか研究者の卵から探偵へクラスチェンジ後、足を洗った現在はライター稼業。いまだに尾行を気にして振り返る癖が抜けません。記事の守備範囲はネット、現実世界に関わらずちょっぴりアングラ系を好みます。