印南貴史監督

東池袋大勝軒の創業者で、“ラーメンの神様”こと山岸一雄氏の半生と人物像にスポットを当てたドキュメンタリー映画、『ラーメンより大切なもの〜東池袋 大勝軒 50年の秘密〜』。そのメガホンを執った印南貴史監督が、人々を魅了してやまない山岸氏への想いを語った。

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印南監督が“ラーメンの神様”と初めて会ったのは、本作の前身となるバラエティー番組の取材で訪ねた10数年前だ。「東池袋の大勝軒には、山岸さんを中心とした“不思議な社会”がありました」と当時の様子を回想する。「本当に数時間、待っているお客さんがいました。やがて取材でお邪魔するうちに、人気が集まる理由はラーメンだけじゃない、山岸さんにまつわる別の理由が絶対にあるはずだって強く思うようになりました」と確信を抱く一方、“人間・山岸一雄”にみるみる惹かれていったという。「気がつけば、山岸さんの近くにいつもいましたね。だから、プライベートなことまで相談したことがありますよ(笑)」。

最初の出会いから、数度の番組制作、そして今回の映画版に至るまで、10数年に及ぶ山岸氏との交流の中で「たくさんのことを勉強しました」という印南監督。その中でも「仕事をまっとうするスタンスを知りました」と熱弁する。「山岸さんの背中を見ていて、仕事は一生懸命にやるものだ、ということを痛感しました。山岸さんは味覚がすごく鋭くて、たとえば、どのラーメンでも、すぐに大勝軒のラーメンにしてしまう。いつも自分の味が出せるということは、すなわち、仕事に対するスタンスが一定に決まっているということです」。自分の味を持ち続け、それを、あらゆる局面で妥協せずに発揮する山岸氏の姿に、印南監督は同じモノづくりの人間として心底感動したと言う。

「人って芯を立てないと、何かの拍子で自分を曲げてしまいますよね。相手にこびてしまうことがある。山岸さんのおかげで、自分の仕事をまっとうするために、核となるモノを持ち続けようと思いました」。その信条と情熱が、映像クリエイターとしての現在の自分の支柱になっているという印南監督。そして、その山岸イズムは本作にも投影されているはず。印南監督や無数の人々が愛してやまない山岸氏の魅力に、映画を通して迫ってほしい。

『ラーメンより大切なもの〜東池袋 大勝軒 50年の秘密〜』
公開中

取材・文・写真:鴇田 崇