阿曽山大噴火 阿曽山大噴火

法廷は舞台なのです――これはドイツ人の小説家で弁護士フェルディナント・フォン・シーラッハの初戯曲「テロ」の冒頭で、裁判長が客席に向けて発するセリフです。 

舞台「TERROR テロ」

これ! これ! まさしく、これなんですよ! 初めて刑事裁判を傍聴した時に思った「芝居っぽいな」という感覚。別に被告人の言動がわざとらしいって意味じゃなく、裁判のやりとり全てが舞台っぽいんです。

裁判長が被告人に対して証言台の前に立つよう指示すると、被告人は椅子から立ち上がって歩き出し、証言台の前でピタッと止まるわけ。まるで床にバミリのテープが貼ってあるのかと思うほどに寸分違わずですよ。

十数年前に裁判傍聴の本を出版するとき、担当者から「裁判はシェイクスピアより面白い」にしましょうと言われたのを思い出しました。ダサすぎると拒んだけど、シーラッハが「法廷は舞台」と書いているんだからアリだったかもしれませんね。

そして、刑事裁判をはじめて見た時に、変だなと思ったのは、最も無関係なのが傍聴人ということ。事件の関係者が傍聴席に座っていることも多々あるんだけど、再現VTRにも入れてもらえないほどの蚊帳の外ですよ。ケータイの電源はOFFで、私語も居眠りも禁止という観劇と同じルールを課せられ、一歩引いた立場で見てる存在。実際の裁判はそうなんです。

しかし、この「テロ」は観客に判断を委ねます。エンディングが有罪になるか無罪になるかは、観客次第。もう他人事ではいられないんです。さらに、扱われる事件はテロ。現代に生きる者として逃れることを許されないテーマ。もはや、フィクションの壁を取っ払った「法廷の舞台」なのです。

1月からいよいよ「テロ」日本初上演が始まるわけですが、個人的には、どれくらい本当の裁判に近いのかをきっちりと見極めたいですね。原作を読んで素直に思ったのは、「否認事件の割に随分サッパリしてるなぁ」なので。普通の否認事件ならもう少し長めにしっかり審理するでしょ。それが世間的にも大騒ぎになってそうな事件で、被告人質問と情状証人と遺族の証人尋問も結構コンパクトですからね。

と言っても、日本の裁判しか傍聴したことないんでドイツの刑事裁判は知らないですけどね。実際、役者の動きや発するセリフ、舞台上に置かれたセットを見れば、そんな細かいことはどうでもよくなるのかもしれませんね。ただ、自分としては、舞台を見た回数より実際の法廷を見た回数の方が多いので、こだわって観たいかなぁと。その上で、ルールの存在を脅かす行為でもあるテロについてもう一度考えたい。どっちに一票入れるべきか……。

そんな舞台「テロ」は2018年1月16日 (火) から1月28日 (日)まで、東京・紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYAにて上演。チケット好評発売中です。

阿曽山大噴火

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