特別講義の様子

最新作『ベルリンファイル』を引っさげ来日中のリュ・スンワン監督が17日、東京・渋谷の映画美学校で映画製作や俳優を志す学生を前に、特別講義を実施。ホストに篠崎誠監督を迎え、本作への思いやアクションのこだわり、さらに映画監督を志した青春を熱く語り「成功や失敗に、一言で表せる基準はない。それでも、自らが望む映画を撮れたと実感できれば、それは偉大な瞬間だと思います」と未来の映画人にエールをおくっていた。

その他の画像

映画は東西冷戦の象徴でもある国際都市・ベルリンを舞台に、新型ミサイルの輸出をめぐる南北朝鮮、CIA、イスラエル、中東の思惑が交錯した巨大な陰謀を描くサスペンスアクション。『チェイサー』のハ・ジョンウ、『猟奇的な彼女』のチョン・ジヒョンらトップスターが豪華共演する。

舞台をベルリンに選んだ理由は「冷戦が終わった今もなお、イデオロギーによって傷つけられた人々が暮らし、韓国とも歴史的なつながりが強い場所。それに世界最大規模の北朝鮮大使館があるのもベルリンなのです。“スパイの都市”という80年代のイメージにも惹かれました」。また、北朝鮮の描写には慎重になったといい「実態のすべてを把握できなくても、極力歪曲せずに人々のリアルな生活を描きたかった」と振り返った。

また、スンワン監督の“十八番”であるアクション描写に話題が及ぶと「大切にしているのは、人物と空間です。どんな人間が、どんな場所にいるのか? そこから自然な流れで展開するアクションを想定します。ロケハンには、アクション監督と美術監督も連れて行き、その場でアイデアが生まれることもよくあります」。シナリオ作りも「やはり人物像ありき」だといい、「行動の正当性を検証した上で、物語の骨格やシーンが形作られる」と解説すると、学生たちは熱心に聞き入っていた。

「叔父の影響で、香港の武術映画が大好きでした。それに少年時代から推理小説をよく読んでいた。日本映画では、鈴木清順監督が最高ですね」とルーツを明かし、「高校時代は、あらゆる映画や評論に触れ、友人と8ミリ映画を撮る日々。成績は悪く、進学にも失敗してしまった」。それでも、就職しながら、韓国のフィルムワークショップで映画を学び、そこで現在の妻とも出会ったという。「何度もコンテストや映画賞に応募したが、鳴かず飛ばず。これが最後と覚悟を決めて製作した作品でチャンスをつかむことができた」と苦労時代をしみじみと語っていた。


『ベルリンファイル』
7月13日(土)新宿ピカデリー、丸の内ピカデリーほか全国ロードショー