比嘉歌子役の上白石萌歌 (C)NHK

 NHKで放送中の連続テレビ小説「ちむどんどん」。戦後の沖縄で四兄妹の次女として生まれ育ったヒロイン、比嘉暢子(黒島結菜)が上京し、料理人の道を目指して奮闘する物語だ。本作で、内気で病弱だが、心優しく歌が大好きな暢子の妹・比嘉歌子を演じているのが上白石萌歌。初めてとなる朝ドラ出演の舞台裏を語ってくれた。

-初めての朝ドラ出演ですが、ここまで撮影してきた感想はいかがですか。

 同じ役と(撮影で)1年間向き合う経験は初めてですが、まるで長距離走みたいです。ずっと先にあるゴールに向かって、どうやって自分とリンクさせていくか、どんなふうにこのキャラクターを成長させていくのか。そういうことを、日々考えながら演じるのがすごく楽しいです。ただ、午前中は16歳の場面、午後は28歳の場面など、撮影スケジュールが入り組んでいるので、そういう年齢感や自分の実年齢を超えた役を演じることなど、いろんな難しさも感じています。そういう経験を積む中から、歌子の成長を見せられたら、と思っています。

-比嘉家四兄妹を演じる皆さんの印象はいかがでしょうか。

 皆さん「当て書きじゃないの?」と思うぐらい、役と似ているので、私もすっかり皆さんをその役として見るようになりました。4人一緒にいることも当たり前ですし、最近はすっかり本当の兄妹のようになっています。この先、他の作品で皆さんと共演することがあったら、「ニーニー」「ネーネー」って呼んでしまいそうなぐらい、本当のお兄ちゃん、お姉ちゃんみたいに思っています。

-具体的に皆さんのどんなところが役と似ていますか。

 ニーニー(=兄・賢秀を演じる竜星涼)は、常に家族の真ん中にいて、明るくみんなを笑わせてくれるムードメーカーです。黒島さんは、すごく潔いところがあって、自分の志を貫こうとする感じが暢ネーネー(=暢子)そっくりですよね。良子ネーネーは、川口(春奈)さんの中にもある芯の強さや正義感がすごく似ているなと思います。

-そういう皆さんの仲の良さやご本人と共通する部分がドラマにも反映されているように感じます。ところで、名前に同じ「歌」の文字が入っている点は、上白石さんと歌子の縁を感じさせますね。

 自分の名前の漢字がそのまま役につながることは初めてなので、今まで以上に役へのシンパシーを感じています。それだけでなく、歌子には歌う場面もあって、このドラマの中で歌の要素を担う役でもあるので、「精いっぱいやらなきゃ」という気にもなりました。

-歌といえば、上白石さんは“adieu(アデュー)”名義で音楽活動も行っていますが、歌手として歌うときとドラマの中で役として歌うときで、どんな違いがありますか。

 普段、歌手として歌うときは、限りなく自分に近い感じで歌っています。でも、役として歌うときは、役の心情の延長線上に歌があるので、全く違います。例えば、歌子が緊張してうまく歌えなくなる場面では、足先から肩に上ってくるようなガチガチの緊張感と歌を両立させなければいけませんし。そういうことを自分なりに研究して、場面に応じて歌子らしく歌えるようにと心掛けています。

-しかも、劇中ではさまざまな曲を歌いますよね。曲による違いなどもあるのでしょうか。

 歌子の心情に寄り添った曲が多いので、なるべくそのときの歌子の心情を意識するようにしています。例えば「翼をください」なら、病弱な自分にない健やかさや幸せを願う気持ちを重ねたり…。そのときの比嘉家の状況とリンクすることもあるので、歌子の歌がそういういろんなものを視聴者の皆さんにつなぐ役割を果たせたらいいなと思っています。

-歌手と女優を両立していることが歌子を演じる上で役立っているようにも思えますが、いかがでしょうか。

 役の中で歌うのは初めてですが、音楽をやっていることが役立っている部分も多少はあるかもしれません。ただ、歌子の場合はせりふより、歌に本音が出るところがあるんですよね。だから、まずはそれを忘れず、役として歌うことを一番に考えています。

-しかも、歌だけでなく、三線も自身で演奏しているとか。

 今まで一度も触れたことのない楽器だったので、最初はすごく不安でした。今も、慣れない沖縄ことばで演奏と歌のバランスを取らなければいけないので、「弾き語りって難しいな…」と実感しながら撮影しています。まだまだ拙い感じですけど、弾いていると、沖縄の風や海を思い出すことができるんです。だから、家でもよく練習しています。

-三線の弾き語りで好きな歌を教えてください。

 歌子が劇中で歌う「娘ジントヨー」という曲がすごくすてきなんです。(砂川)智(前田公輝)に対する歌子の恋心に重ねて歌ったんですけど、「ジントヨー」は「本当だよ」という意味の沖縄ことばで、曲調は軽やかで楽しく、歌詞も美しいので、大好きです。

-沖縄ロケにも行ったそうですが、印象に残っていることを教えてください。

 とにかく天気がよくて、海辺に立っているだけで、いろんなものが満たされました。こんな気候の土地で、この自然の中で育ったら、歌や踊りを自然に愛するようになるんだろうな、とすごく感じました。四兄妹で海辺を歩いたり、深い話をしたりする機会もありましたし。4人が本当の兄妹のような雰囲気になれたのも、沖縄での時間があったおかげだと思っています。

-沖縄ロケ中、地元の人と接する機会などはありましたか。

 撮影以外で外出する機会は少なかったのですが、海の近くで三線を練習していたら、自転車に乗ったおじいさんが「よう頑張ってるな」って声を掛けてくれたことがありました。歌や踊りは、東京では非日常的なエンタメとして存在していますけど、沖縄に行くと、私のすぐ近くで三線を弾く方がいらっしゃったりして、普通の方にもすごくなじみがあるものなんですよね。宴会の席で踊り出す文化もあると伺いましたし、土地がそうさせているんだな、とすごく感じました。

(取材・文/井上健一)