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東京都交響楽団が、創立50周年を迎える2015年4月より、大野和士を音楽監督に迎えることを発表。就任記者会見が6月14日に都内で行われた。

現在53歳の指揮者・大野和士は、これまでベルギー王立歌劇場(モネ劇場)など、ヨーロッパの歴史ある歌劇場の音楽監督などを歴任。現在はフランス国立リヨン歌劇場首席指揮者として手腕をふるうほか、世界の主要オペラハウスやオーケストラへの客演を続ける、名実ともに日本を代表する指揮者のひとりだ。都響とは1984年に自らのプロ・デビューで初共演。1990年から92年まで指揮者を務めるほか、近年も定期的に共演を重ねるなど、厚い信頼関係を築き上げてきた。

今回の音楽監督就任の背景には、一昨年の東日本大震災が大きく影響しているという大野和士。この2年間、音楽家としてどうあるべきか深く考えたという。会見では、1990年代のユーゴスラビア内戦中のクロアチアで、ザグレブ・フィルの音楽監督を務めていた当時の体験談も織り交ぜながら「心から傷ついている祖国により貢献したいという思いが募った」と熱い思いを述べた。

欧米の楽壇の最前線で活躍している大野和士らしく「今まで以上にさまざまなレパートリーに挑戦していきたい」と、音楽面でのさらなる開拓にも意欲的だ。「都響の演奏会に来れば、(世界のオーケストラシーン)で何が起きているかが分かる。何か新しいことに出会える――そんな風にしていきたい」と抱負を語る。「知られざる名曲、知っておくべき名曲」を積極的に取り上げるべく、自身が企画委員を務めるサントリーホールとのタイアップ企画も計画しているとのこと。現代音楽に精通し、卓越したプログラミングにも定評のある名匠の手腕に注目が集まるところだ。

オーケストラを代表して会見に登壇した都響ソロ・コンサートマスターの矢部達哉も、大野和士の“帰還”に喜びを隠さない。自身が都響のコンマスに就任した1990年、最初の演奏会を指揮したのが大野和士。以来、互いの成長を認めあってきた仲だ。「(不謹慎かもしれないけれど)僕にとっては放蕩息子の帰還という感じ。カールスーエ、モネ、リヨンと転進を重ねていく大野さんを、僕はいつになったら帰ってくるのかとずっと待っていました。ただ、大抵の放蕩息子は無一文で帰ってきますが、大野さんの場合は、欧米で色々経験をされ、音楽的な財産を都響に持ち帰ってきてくれる。彼の立派な右腕になれるように頑張りたいです」と語る。

大野和士の都響音楽監督の任期は、2015年4月から2020年3月末までの5年。就任1年目には、都響の創立50周年を記念したヨーロッパ・ツアーも計画中。欧米で実力を積み上げた名匠と都響との新しいタッグに期待したい。