『盲導犬』稽古場より (C)みなもと忠之 『盲導犬』稽古場より (C)みなもと忠之

蜷川幸雄と唐十郎が、初めてタッグを組んだ記念碑的作品『盲導犬』が、初演から40年を経て現在に甦る。そこで7月6日(土)の初日を前に、演出家と役者たちの熱気溢れる稽古場へと潜入。作品が持つ魅力に迫った。

『盲導犬』チケット情報

舞台は1970年代初期の新宿。学生運動が下火になりつつも、まだまだ世の中が危うさに満ちていた時代である。物語は、そんな新宿の地下街にあるコインロッカーの前で、盲人の影破里夫が“不服従”の盲導犬・ファキイルを探すところから始まる。そこに謎の女・奥尻銀杏やフーテン少年らが絡み合い、芝居はラストへと一気に駆け抜けていく。

稽古場でまず目についたのが、舞台の上手から下手まで広がるコインロッカー。そしてこれこそ本作唯一のセットであり、その世界観を決定づけるセットでもある。昨年、同じく唐&蜷川のタッグで上演された、『下谷万年町物語』の長屋のような大掛かりなセットではないが、逆にこのシンプルかつ制限された空間により、観客は役者の演技そのものを濃密に味わうことができるはずだ。

そこに姿を見せたのは、本物のシェパードを伴った、木場勝己を始めとする5人の愛犬教師役の俳優たち。1匹だけでも迫力のあるシェパードが、ズラリ5匹。それだけで胸は高鳴り、これからここでいかなる事件が起こるのか。観る者の想像力を強く駆り立てる。

さらに影破里夫役の古田新太が登場。その存在感はさすがながら、詩的で美しい唐のセリフを古田が発すると、そこには不思議なおかしみが加味される。いわゆるアングラ特有の熱を帯びながらも、その要所、要所での古田の力の抜き具合が絶妙なのだろう。そのおかしみが影破里夫という人物にぴたりと合い、また唐作品の大きな魅力であることに気づかされる。

奥尻銀杏を演じるのは、『下谷~』に引き続きの参加となる宮沢りえ。美しさ、愛おしさ、切なさ、悲しさ。女のすべてを集約したような銀杏というキャラクターを、宮沢は全身全霊をもって体現していく。そんな古田、宮沢にぶつかっていくのが、フーテン少年役の小出恵介。俳優として脂が乗ってきた時期だけに、本作でのさらなる飛躍を期待したい。

最初から最後までの通し稽古が終わると、蜷川は「大体うまくいってるな」とひと言。キャストはもちろん、仕掛けの多い舞台なだけに、スタッフの顔にも安堵の色が浮かぶ。だが本番まではまだ2週間以上。2013年版『盲導犬』はどこまで進化を遂げるのか、その幕開けを楽しみに待ちたい。

公演は、7月6日(土)から28日(日)まで東京・Bunkamuraシアターコクーン、8月3日(土)から11日(日)まで大阪・シアターBRAVA!にて上演。ともにチケット発売中。S席、A席のほか、東京公演のみ中2階立見券を追加発売中。

取材・文:野上瑠美子