『嘆きのピエタ』とめどない暴力の物語に描かれたものとは?

2013.6.24 18:23配信
『嘆きのピエタ』 (C)2012 KIM Ki-duk Film All Rights Reserved.

これまですでにカンヌ、ベルリン、ヴェネチアの世界三大映画祭で監督賞などを手にしてきたキム・ギドク監督が韓国映画初となるヴェネチア国際映画祭金獅子賞(最高賞)を受賞した『嘆きのピエタ』。山奥での隠遁生活を撮った異色のセルフ・ドキュメンタリー『アリラン』や、実験的なフィルム『アーメン』を経て久々に発表したこの長編監督作で、キム・ギドクはまた新たな道に踏み出したといっていい。

その他の写真

描かれるのは、生まれてすぐに親に捨てられた非情で孤独な借金取りの男、ガンドと、彼の前に現れた母親を名乗る謎の女の物語。ガンドには情けという感覚が欠如していて、金を返せない者は保険金で支払えと、暴力によって重傷を負わせて容赦なく障害者にしてしまう。そんな男の前に真っ赤なルージュをひいた美しくも妖しい気配をまとった中年女性が現れてつきまといはじめた日から、彼の運命は転がり出すのだ。

工場で暴力を振るい、狭い浴室で肉をさばいて血にまみれていたガンドは、どんなにひどい目に遭っても決して彼のそばを離れず、ときにはただ黙って料理をこしらえるその女を、母親として受け入れていくようになる。

監督ならではの思わず笑ってしまうほど過剰な痛みに満ちた描写と、役者の鬼気迫る顔を写す場面の連続は、暴力は圧倒的な母性の前で膝まづくことができるのか?という根源的な問いを観る者に投げかけてくる。

舞台となっているのは、町工場がひしめくソウルの小さな町、清渓川。貧しかった少年時代、監督が工員として過ごした自らの原点と呼べる場所なのだという。暗く手狭な工場でひとつひとつ人が動かしている機械の音が心臓の鼓動のように鳴り響き、路地裏には温かい太陽の光は届かない。この映画のもうひとつの主人公ともいえるこの町の景色は、何よりも拝金主義がはびこる世界への、監督からの嘆きのメッセージを代弁しているかのようだ。人間性を手にしたガンドと、ある目的を胸に秘めて母親を名乗っていた女は、最後に一体何を見つけ出したのか。とめどない暴力が描かれた物語の向こう側には、魂の救済ともいうべき、意外なほどの静けさと安らぎが広がっている。

『嘆きのピエタ』
上映中

細谷美香

いま人気の動画

     

人気記事ランキング