岩山糸役の黒木華

 生涯に三度結婚した西郷隆盛(鈴木亮平)の三番目の妻となり、明治維新に向かって突き進む西郷を支えた岩山糸。本作では、幼い頃から西郷に思いを寄せ、紆余(うよ)曲折の末に結ばれる運命の女性として登場する。演じるのは「真田丸」(16)以来、2年ぶりの大河ドラマ出演となる黒木華。糸役に込めた思いや、主演の鈴木亮平の印象など、撮影の舞台裏を語ってくれた。

-「真田丸」以来、2年ぶりとなる大河ドラマ出演の感想は?

 「真田丸」で演じた梅は、残っている史実が少ない人物だったので、三谷(幸喜)さんの台本や共演の堺(雅人)さん、長澤(まさみ)さんたちと一緒に楽しく作っていく感じでした。今回の糸さんは、それに比べたらよく知られていて、有名な言葉も残している人物。そういう役を1年間演じられるだろうかというプレッシャーが大きかったです。西郷さん自身も有名な人ですし、その奥さんをやれるだろうかという不安もありました。ただ、鈴木亮平さんとはこれまで何度かご一緒させていただいているので、楽しんでやれたらと思っています。

-糸はどのような人物でしょうか。

 か弱い女性ではなく、女とか男というものにとらわれず、どっしりしたものを持っている明るい人です。西郷さんや大久保(正助/瑛太)さんたち男衆が集まって、もっと日本を良くしたいと語り合っている姿を間近で見て、同じ闘志を燃やしている。自分も女だけどもっと勉強したい、家にいるだけではなく、もっと外に出て行きたいというアグレッシブな意志がある。これから成長するにつれて変わっていく部分もあるでしょうけれど、こういうところが、糸の根底にあるものだろうと思いながらやっています。

-そんな糸をどのように演じていこうと思っていますか。

 チャーミングだと思ってもらえるようにしたいです。とはいえ、最後まで西郷さんのそばにいるというのは、すごく大変なことだと思うんです。三番目の奥さんということで、二番目の奥さんの愛加那(二階堂ふみ)の子どもを引き取って、革命を起こしていく男性を近くで支えながら、子どもを育てたりするわけですから。だから、そういう強さを見せられるようにしたいです。

-若い頃から晩年まで、糸の長い人生を演じることになりますね。

 私は今、27歳ですが、年を取ってからの糸を演じるときは、実年齢との差はもちろん、人生の厚みの違いも出てくると思うんです。一度、西郷さんと別れて違う人と結婚して、また戻ってくるという、生きてきた軸が糸にもあります。それをどう表現すればいいのか、悩んでいる最中です。ただその分、若い頃は“薩摩おごじょ”らしい明るさと元気と力強さを大事にしながらやっています。糸は足が速いので、いろいろな所を走る場面があるのですが、そういう足腰のしっかりしたところが、西郷さんを支える力強さにつながっていくのかなと思いながら、一生懸命走っています。

-黒木さんは、時代劇では控えめで古風な役の印象が強く、糸のような元気のいい人物を演じることは珍しい気がします。

 自分の中ではそんなにやっている印象はないのですが、時代劇では誰かを支えるような役のイメージが強いみたいですね。だからこそ、全部一緒に見えてしまうのではないかという不安もあるので、ちょっとした動作やアクティブさという部分で糸を表現できればと。「こんな黒木さん、見たことない」ではなく、「糸さんはこんな人だったのかも」と思ってもらえるように頑張りたいです。

-西郷隆盛をどんな人物だと考えていますか。

 とても優しくて力持ちで、カッコいい人ですよね。何に対しても熱い人で、女性からも男性からも好かれたということがよく分かります。今までは犬と一緒に立っている銅像や、坂本龍馬と薩長同盟を結んで明治維新を成し遂げた人という表層的なイメージしか持っていませんでした。でも今回、いろいろなエピソードを知り、この人が時代を変えたんだということを改めて実感しました。そんな人物を、鈴木亮平さんが生き生きと演じていますが、亮平さん自身の人の良さと入念な役作りが相まって、本当に吉之助(隆盛)さんがいたらこういう人だったのではないかと思うほどです。

-鈴木亮平さんと共演した感想は?

 「花子とアン」(14)や「天皇の料理番」(15/TBS系)でも共演していたので、もう身内みたいな感覚です(笑)。役者として相談をすれば「ああしたらいいんじゃない」、「こうしたらいいんじゃない」とすごく気に掛けてくださるので、本当に頼りになるお兄さんです。ただ、今までは義理の兄の役が続いていましたが、今回は奥さんなので、今までよりも一緒にいるシーンが多くてうれしいです。一緒にお芝居をしているとものすごく熱量を感じますし、勉強にもなって楽しいです。

-鹿児島ロケにも行かれたそうですね。

 今回、初めて鹿児島に行きました。すごく暑かったのですが、こういう気温の中で、こういうにおいの中で(糸は)生きてきたんだ、ということを体感できてよかったです。ご飯もすごくおいしくて、人も優しいですし。屋台村に行ったら、平日なのに人がたくさん集まっていて、みんな明るくて…。帰るときは店主の方たちが「応援しています」と言ってくださって、皆さんが期待していることが分かったので、改めて「頑張らなくちゃ」と思いました。今までは周りに鹿児島の人がいなかったのですが、今回、桜庭(ななみ/西郷琴役)さんや沢村(一樹/赤山靱負役)さんが鹿児島出身なので、少しずつお話を聞いていきたいです。

-中園ミホさんの脚本の魅力は?

 「花子とアン」のときは女性が主人公だったので、女性の気持ちや心の動きをとても上手に書かれる方という印象がありました。今回は男性が中心なので、どういうふうになるのかと思っていましたが、人と人との関わりがうまく書かれていて、やっぱり面白いです。少し先に、糸が吉之助さんに思いを伝えるシーンがあるので、そこは自分の中でも大事にしたいと思っています。

(取材・文/井上健一)

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