中村米吉のナウシカはどこから見ても少女そのもの

第三部『風の谷のナウシカ』より、ナウシカ=中村米吉 提供:松竹(株)

今回ナウシカ役に抜擢された中村米吉が、特筆すべき素晴らしさだ。菊之助が演じた初演時の髷物のかつらから、原作に近いミディアムショートになったビジュアルにあわせるかのように、せりふもしぐさも自然で、およそ女方の技術を感じさせない。どこから見ても、すべての命を分け隔てなく愛おしむ、つぶらな瞳の少女そのものなのだ。

脚本(丹羽圭子・戸部和久)も「虫めづる姫君」であることをより強調していて、ナウシカが命がけで王蟲を救おうとし、痛みに寄り添い怒りを鎮め、完全に王蟲に共感できる才能を持つ人物であることに、説得力を持たせている。

スピリチュアルな彼女のパワーを、王蟲の精の示現で見せるところからは、音楽・演出ともに歌舞伎味にギアが入り、青き衣への引き抜きで、次の幕への期待を盛り上げる。

第三部『風の谷のナウシカ』より、左から)ナウシカ=中村米吉、幼き王蟲の精=尾上丑之助 提供:松竹(株)

この場面では、菊之助の長男・丑之助の幼き王蟲の精の神々しさが忘れがたい。登場した瞬間に舞台の空気が一変し、これは王蟲の擬人化ではなく、文字通り「精(スピリット)」の可視化に相違ないと思わせる。一挙手一投足に釘付けとなる、畏るべき8歳児だ。