美輪明宏  撮影:御堂義乗 美輪明宏  撮影:御堂義乗

昨年末の紅白歌合戦で歌った「ヨイトマケの唄」が大反響を呼び、音楽配信会社によるユーザー投票では「最も印象に残ったアーティストランキング」で1位を獲得するなど、改めてその音楽性に注目が集まっている美輪明宏。ここ15年ほどは春に芝居、秋にはコンサートの舞台に立つことが定例となっており、今年も9月に『ロマンティック/音楽会』が開催される。ドラマティックな愛をひとり芝居のように歌い上げるシャンソンや、「ヨイトマケ~」など社会を鋭く切り取った美輪作詞・作曲のオリジナル曲、さらには叙情性豊かな懐かしい日本の名曲など、その内容はここでしか触れられないものばかり。舞台美術や衣裳の隅々にまで心を配る美輪に、今年の音楽会について聞いた。

美輪明宏/ロマンティック音楽会

「紅白歌合戦の後は、私の周りでも年齢や性別関係なく大勢の人が感動したと言ってくれて、ちょっとした騒ぎになりました。印刷してもらって読んだインターネットでの若者たちの声で『俺たちだっていいものはいいと誉めるんだ』と書いてあったのも微笑ましかったわね」と美輪は話す。「今の曲はほとんどが8ビートでメロディラインが希薄でしょう。そういう曲しか知らないだけで、若い人だっていい曲を聴けば必ず心に響くはず。昔はルンバやボレロ、タンゴなど音楽にも様々な種類があって、メロディを聴いただけで“あの曲だ”とわかる名曲がたくさんあったのね。もし『紅白~』で興味を持った人がいるなら、ぜひ音楽会でそういった曲の数々に触れてみてほしい」

実は、“日本初のシンガーソングライター”でもある美輪。「ヨイトマケ~」が炭鉱町のコンサートでの経験をもとに作られたのは知られているが、他にも身体障害者の愛を綴った「愛の贈り物」、従軍慰安婦の心情を生々しく描く「祖国と女達」など、知る人ぞ知る名曲が存在する。「せっかくだから今年は、そういった曲もいくつか歌おうと思っています。『祖国と女たち』は、戦後引き上げてきた元従軍慰安婦の女性たちの話を思い出して作った曲。あの頃、地方の貧しい娘が『満州にいい仕事がある』と言われたら、家族を食べさせるために行くしかないですよ。内容を知らずに行ったら、仕事は“従軍慰安婦”で、現地で死ねば遺体は野ざらし。命からがら帰国したら、汚らわしいと親戚や土地の者から罵倒されて…。こんなにおかしいことはないですよ」と、美輪は静かだがきっぱりとした口調で語った。

インタビューの終盤、美輪は「私は売り上げのことなんて考えたことはないの。レコード会社は大変でしょうけれどね」と言って茶目っ気たっぷりの笑顔を見せた。華やかな美学と、弱者の立場からの目線。その両輪が、美輪の歌の根幹を支えている。

9月1日(日)から29日(日)まで東京・PARCO劇場で公演するほか、全国各地を巡演。なお、チケットぴあでは東京公演のインターネット先着・座席選択プリセールを7月4日(木)午後8時まで受付中。

取材・文:佐藤さくら