舞台『TERROR テロ』 撮影:引地信彦 舞台『TERROR テロ』 撮影:引地信彦

ドイツの作家フェルディナント・フォン・シーラッハが初戯曲として2015年に発表した『TERROR テロ』が、森新太郎演出の舞台として日本初演される。参審員に見立てられた観客の投票によって判決が変わるという異色の法廷劇だ。初日に先駆けて1月15日、ゲネプロが行われた。

舞台『TERROR テロ』チケット情報

物語の発端は、164名の乗客を乗せたままテロリストにハイジャックされ、7万人の観客がいるサッカースタジアムに向けて墜落しようとしていた民間旅客機を、空軍少佐ラース・コッホ(松下洸平)が独断で撃墜したこと。『TERROR テロ』で描かれるのは、そのコッホを裁く法廷だ。舞台上には椅子が4つ並べられ、裁判長(今井朋彦)、弁護士ビーグラー(橋爪功)、検察官ネルゾン(神野三鈴)、被告人のコッホ、被害者参加人マイザー(前田亜季)が座って、参審員である観客と向かい合う。客電がついたままの場内で、観客はかなりの緊張を強いられ、裁判の参加者であることを意識させられながら観劇に臨む。

法廷劇の名作は数多あるが、本作の特徴のひとつは、事件の概要がほぼ明らかになっており、被告も自らの行為を認めていること。従って争点となるのは、彼の行為の是非をどう判断するかという一点のみ。コッホ本人および彼の上官にあたるラウターバッハ中佐(堀部圭亮)の理路整然とした供述からは、7万人を救うために164名を犠牲にしたコッホの判断が、軍人として理にかなった冷静な判断であるという見解がうかがえる。一方、被害者の妻であるマイザーの涙ながらの証言からは、命の尊さに加え、飛行機がスタジアムに落ちる前に乗客がテロリストを取り押さえることに成功した可能性も示される。果たして、コッホの行動はどう裁かれるべきなのか……?

飄々とした話しぶりに情熱を滲ませて熱弁をふるい、被告を弁護する橋爪。知略に富んだ鮮やかな弁舌で、被告の罪を問いただしていく神野。名優ふたりの長台詞は実に聴き応えがある。共にカントを引用するところにドイツのお国柄もうかがえるが、同時に、世界中がテロの脅威にさらされている今、ここで議論される事柄は私達にとってもまったくもって他人事ではない。リアルなテーマを前に、観客はそれぞれの価値観や問題意識を問われ、有罪・無罪のどちらかの箱にカードを入れるというかたちで答えを出す。その得票数によって、劇の最後に裁判官が読み上げる判決は変わる。

この日のゲネプロでの結果は、有罪26票、無罪39票で、「無罪」。約3時間の上演で交わされた議論の余韻とその日だけの結果を胸に劇場を後にする感覚は、何ものにも代え難い。

公演は1月28日 (日)まで、東京・紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYAにて。その後、その後、兵庫、名古屋、広島、福岡を巡演。

取材・文:高橋彩子

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