『アンコール!!』に出演したテレンス・スタンプ

イギリスを代表する名優テレンス・スタンプとヴァネッサ・レッドグレイヴが夫婦役で共演した映画『アンコール!!』が公開されている。本作はスタンプ演じる72歳の頑固者が、シニア合唱団の仲間たちと出会い、新しい人生のステージに立つ姿を描いたヒューマンドラマで、スタンプの新たな一面を見ることができる作品に仕上がっている。

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恐ろしい誘拐犯を演じた『コレクター』、ゾッド将軍に扮して主人公を苦しめた『スーパーマン』シリーズ、ハードボイルドな魅力を発揮した『イギリスから来た男』など、スタンプは渋くて重厚で、どこか恐ろしい役どころを見事に演じてきた。本人も「私が好きな役はとても怖い役」という。しかし、本作で彼が演じるアーサーは、気難しい男だが妻のために合唱団に参加する“恐ろしいが愛らしい”人物だ。スタンプは「普通の人を演じることが不安だった。僕も普通の人の役を演じることはできるが、決してうまいわけではない。もっとうまく演じられる俳優がいると思った」と振り返る。そこで、彼は役のモデルになった監督の父親や自身の父のエピソードを参考にした。「私は自分の父親のことを考えた。私の父もポールの父とたくさん共通点がある。僕が迷った時には、父親ならこの状況にどう対応するか、父を基準に測ることができた」。

さらに彼は劇中で“セリフ”ではなく“歌”で表に出してこなかった感情を表現することにも挑んだ。これまでのスタンプを観てきたファンからすると彼が高らかに歌っている姿はあまり想像できないが本人は「演劇学校を卒業してから、ずっといろんな教師にボイストレーニングを受けてきた。それで歌のレッスンを始めた。かなり勉強しているが、サウナ室以外で歌ったことはほとんどない。だから実際に監督に会って歌を渡され、うれしいことに歌ってほしいと言われた」という。

あのテレンス・スタンプが劇中で歌う。それだけでも見ものだが、スタンプは「彼は自分の声を見つけることで罪を償う。彼は感情表現が下手だ。感情を表に出さないで、ずっと生きてきた。そんな彼が歌い出すということは、嵐に立ち向かうようなものだ。自分の声を探し求めるということは、つまり自分の本質をいかに探って発見していくかということ。この老人に贖いのチャンスを与える。そういう役柄だったのだと思う。彼がいままで失ってきた人間性というものを掘り起こしていく、それを見つけるチャンスを与えられた役柄だと思った」と分析する。

スタンプ演じるアーサーは心のバリアを取り払い、どのような“自分”と“声”を見つけ出すのだろうか? 名優がカメラの前で歌いだすとき、観客は「あのテレンス・スタンプが歌った」こと以上の驚きと深い感動に出会うはずだ。

『アンコール!!』
TOHOシネマズ シャンテにて公開中
7月5日(金)全国公開