トール・ヘイエルダールJr.氏

ノルウェーの人類学者で海洋生物学者、トール・ヘイエルダールが1947年に成し遂げた伝説の航海と冒険を、雄大なスケールで映画化した『コン・ティキ』。本作に監修的立場で協力した主人公の実子、トール・ヘイエルダールJr.氏が、父親の冒険への想いを語った。

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ヘイエルダール氏の回想録「コン・ティキ号探検記」をベースに、南太平洋に浮遊するポリネシア諸島の人々の起源が南米にあることを信じる彼が、己の仮説を立証するためにコン・ティキ号という名前のいかだで約8,000キロの航海に出る姿を描く。その航海に至るまでのドラマと101日間の大冒険を活写する本作を監修、そして完成作を観た実子のヘイエルダールJr.氏は、「劇的なエピソードは101日間の中の数日だったので、映画は映画的でドラマチックな描写はありますが(笑)」と言いながらも、「両親役の俳優たちをはじめ、オールキャストの演技が秀逸でした」と納得する仕上がりで満足しているという。

彼はインカ帝国を征服したスペイン人の図面を参考に、古代インカで容易に入手可能だった材料でコン・ティキ号を制作。自説の正当性を確かめるため、5人の仲間と航海へ――。ロマンに満ち、とても無謀な冒険に感じるが、それをそばで見ていた9歳のヘイエルダールJr.少年は「父の計画は完璧でした(笑)」と回想する。「ある時、父に聞いたことがあります。完璧な計画を立て、絶対に成功することがわかっていながら冒険に出ていく理由は何かってね(笑)。すると父は準備段階までが仕事で、航海が始まれば後はバケーションだと言っていました。つまり、彼はバケーションのために冒険をしていたわけですね」。

このヘイエルダール氏の言葉は、冒険にあこがれる我々の胸に熱くヒットする。実は2013年の現代、「コン・ティキ号探検記」をベースにした映画を作る意味があるのだとヘイエルダールJr.氏は強い口調で言う。「家族としては写真などのディテールにおいてリアリティーの確保などに注意を払いましたが、観る人たちにとって大切なことは冒険やロマンを感じることだと思います。これは、あくまでも外部の人たちの視点で描いた、ひとつの冒険録です。その意味で、わたし自身納得している作品なので、どうぞ観てほしいですね」。

『コン・ティキ』
公開中取材・文・写真:鴇田 崇