酒井充子監督

1895年から1945年までの51年間、日本統治下にあった台湾で日本の教育を受け、日本人として育った「日本語世代」とよばれる台湾の老人たちの生の声に耳を傾けたドキュメンタリー映画『台湾人生』。2009年に公開されロングラン・ヒットを記録した同作の続編といえる『台湾アイデンティティー』が公開を迎える。再び激動の時代を生き抜いた台湾の市井の老人たちと対話した酒井充子監督が、その作品に込めた想いを語ってくれた。

作品の画像

今回、酒井監督がクローズアップしたのは敗戦で日本が撤退した後の台湾。この時代に目を向けた理由をこう明かす。「台湾は日本統治が終わると今度は蒋介石の中華民国国民党政権による統治が始まった。その間にはホウ・シャオシェン監督の『悲情城市』で描かれた“ニニ八事件”や、エドワード・ヤン監督の『クーリンチェ少年殺人事件』で扱われている“白色テロ”といったことが起き、国民党による厳しい言論統制と弾圧行為で多くの罪なき人が犠牲になった。日本語世代の皆さんは日本統治と国民党統治を経験されている。このふたつを知ってこそ台湾の日本語世代の皆さんと真の意味で向き合ったことになるのではないかと思いました」。

作品は父が反体制活動をしたとされ銃殺された高菊花さん、反乱罪で8年間も政治犯収容所で過ごした張幹男さんなど、6人の日本語世代の老人たちの体験談を収録。各人がそれだけで1本の映画になりそうな壮絶な半生を語っている。「戦後、日本が高度成長時代に入っていく一方で、それまで日本人として生きてきた彼らは弾圧の時代を迎える。また、現在は横浜で暮らす呉正男さんは、日本兵として北朝鮮で敗戦を迎え、中央アジアの捕虜収容所で強制労働を強いられた。インドネシアで暮らす宮原永治さんは戦後、残留日本兵としてインドネシアの独立運動に参加している。日本人としてシベリア抑留され、未帰還兵となった台湾の人々がいる。この事実とかつて日本人だった彼らの存在を、我々日本人はもっと知るべきではないでしょうか」。

東日本大震災の際、台湾からは200億を越える義援金が寄せられた。このこともやはり日本語世代の存在と無縁ではない。酒井監督は最後にこう語る。「日本と台湾はいろいろな意味で深い結びつきがある。ここ数年、民間レベルでは日本と台湾の親交が深まっている印象を受けます。この映画がさらに台湾と日本が相互理解を深めるものになってくれたらうれしい」。

『台湾アイデンティティー』
7月6日(土)よりポレポレ東中野にて公開

取材・文・写真:水上賢治

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