ドラマ「コウノドリ」「毒島ゆり子のせきらら日記」などを手がけた矢島弘一が、脚本、演出、主宰の三役を兼ねる“劇団マハロ”。その第20回公演『明日、泣けない女/昨日、甘えた男』が、1月18日、東京芸術劇場 シアターウエストで開幕した。
舞台は昆布漁を主産業とする北海道のある町。携帯電話からは日々、北朝鮮のミサイル発射のアラームが鳴り響いている。昆布漁師を父に持つ鈴子は、自らがセックス依存症であることに悩んでいた。そんなある日、町にセックス依存症の治療のための施設をつくる話が持ち上がる。それと同時に、鈴子と同じ悩みを抱える女性ふたりが東京からやって来て…。
LGBTや不妊症、いじめなど、現代社会における多様な問題をテーマに掲げてきた東京マハロ。今回彼らが取り上げたのは、なかなか顕在化することがない、女性のセックス依存症という問題だ。本作に登場する女性たちは、幼いころに施設で育った、夫に浮気された、強姦されたなど、依存症に至った理由はさまざま。なかでも主人公・鈴子はある病気が原因となっており、そのどうしようもないやるせなさを思うと、非常に心が痛い。
それぞれの事情を抱えつつ、何とか依存症と向き合おうとする女性たち。それとは対照的なのが、閉鎖的なコミュニティのなかで暮らし、自分には関係ない、わからないとして向き合おうとしない男性たちだ。さらに鈴子を追い詰めるのは、同じ女性でありつつ、前時代的な考えを持つ町長や、自らの幸せにしか興味がない自分と同い年の義母。そんな彼女自身も、「依存症が治ったら、みんな私から離れていっちゃうかも…」と、治療に対する後ろ向きな考えを拭い去ることが出来ない。
鈴子を演じたのは、劇団員でこれが初の主演となる西野優希。決して容貌に恵まれているわけではない彼女だが、それが逆にセックスに救いを求めてしまう女性像をリアルに体現する。また本作で初舞台を踏んだのが、AKB48の加藤玲奈。鈴子の父と再婚した茉莉花を演じ、いわゆる“イマドキな女の子”のなかに、いきなり“母”になってしまった女性の揺らぎを繊細に見せた。
依存症になった理由はさまざまだが、彼女たちに共通するのは、“愛されたい”という強い思い。それは決してセックス依存症だけに限ったことではなく、完全に満たされている人も多くはないだろう。そのなかで人はどう生きていくのか、そんなことを考えるきっかけを、本作は与えてくれる。
公演は1月27日(土)まで。
取材・文:野上瑠美子