山本舞香(ヘアメーク/KUBOKI(Three PEACE)/スタイリスト/津野真吾(impiger) )

 伊坂幸太郎の小説『マリアビートル』を、『デッドプール2』のデビッド・リーチ監督が映画化した『ブレット・トレイン』が9月1日から公開される。本作で、ブラッド・ピットが演じる主人公レディバグを翻弄(ほんろう)する謎の女子学生プリンスを演じたジョーイ・キングの日本語吹き替えに山本舞香が起用された。吹き替え初挑戦となった山本に話を聞いた。

-今回はどういうきっかけで、吹き替えをすることになったのですか。

 最初は、マネジャーから「ハリウッド映画の吹き替えどう?」という連絡が来て、「えっ、どうしよう。私でいいんですか」みたいな感じでした。でも、せっかく声を掛けていただいたので、やってみたいなと思い、挑戦してみました。自分の声にはコンプレックスがありましたが、声を掛けてくださった方が、私の声が好きだと思ってくださったのなら、それに応えたいなと思いました。

-では、初めての吹き替えはいかがでしたか。

 まず、試写を見て、プリンスのキャラクターや、ジョーイ・キングさんの声のトーンを勉強し、あまり懸け離れないようにしようと思いました。なので、地声からツートーンぐらい上げる感じでいいのかなと思って、ブースに入ってから監督と話し合いながら、作っていった感じです。

-吹き替えをする上で、気を付けたことは?

 声のトーンを上げることと、涙で震える声を何回か練習しました。ただ、私は、感覚でやってしまうところがあるので、一度やってみて、駄目だったらもう一度違う形でやってみようという感じでした。それほど作り込んだり、深く考えずにやった感じです。一人でブースにいると、いろんなことを考えます。一度映像を見てから、声を出してみて、ちょっと違うなと思ったら、「もう一度やらせてください」と何度もお願いしました。今回はとても監督に助けられました。

-普段の演技とは違う感じですか。

 気持ちとしては、普段のお芝居の方が楽です。どちらにしても私は感覚派なので、台本を読み込んだり、演技プランを練るわけでもないので、相手のお芝居を見て、それにハマるものができたらいいなと思っています。

-では、自分の吹き替えも含めて、日本語版を見てどう思いましたか。

 実は、一定のテンションでしゃべってしまい、やる気がなさそうに聞こえる自分の声があまり好きではありません(笑)。だから、日本語版を見ても、何か、慣れない感じがして恥ずかしかったです。その経験を踏まえて、改めて、声優さんはすごいなと思いました。好きな声優さんがやっていると、なおさらです。自分がやってみて、吹き替えに対する考え方が変わりました。声優さんは、声に懸けているんだなと思いました。実在しないものを演じる難しさはもちろんですが、知らない人の声を当てるというのは、その人の性格など、いろいろなことを考えなければできませんよね。それに、表情で表現できないことを声だけでやっているのはすごいと思いました。

-また吹き替えをしてみたいと思いましたか。

 今のところは思っていません(笑)。一度やっただけで、自分から「声優をやりたい」とは言えません。そんなことを言ったら、声優さんに失礼ですし。だから、また声を掛けていただけたら、自分の芝居の幅も広がっていくので、やりたいとは思いますが。自分から安易に「やりたいです」とは言えません。

-ジョーイ・キングとはほぼ同年代ですが、彼女の印象は? また、プリンスという役についてどう思いましたか。

 アフレコをしているときに、サプライズでコメントを頂いたのですが、その感じだとすごく明るい人なんだなと思いました。役としてはサイコパスを演じていたので、22歳でここまでできるのはすごいなと思いました。私も、何か闇があって、というような役が多くて、ハッピーな人物はあまり演じたことがないので、ちょっとつかめば、すぐに入り込めるのかなという気はしました。

-彼女の演技を見て、何か参考になるようなところはありましたか。

 何か取り入れたいなとは思いましたが、日本人が演じるのとは違いますから。日本人がああいうお芝居をすると、見る人は気持ち悪く感じますよね。だから、そこは難しいところだと思いました。

-主演のブラット・ピットについては、どう思いましたか。

 彼の映画は結構見ていて、素晴らしい方だと思っています。「いつか共演したいです」と言いましたが、それは夢のまた夢の話であって、多分無理だと思います(笑)。こうして、間接的にでも共演できたことは、すごくいい経験になったと思います。

-真田広之さんについては、どう思いましたか。

 アクション、特に刀のさばき方がすてきだなと思いました。刀を振るところも、しまうところもそうですが、やっぱり日本人だからできる所作にリアリティーがあると思いました。

-空手は黒帯だそうですが、もともとアクション映画は好きでしたか。

 大好きです。デビッド・リーチ監督の『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』(19)は4、5回は見ています。なので、こういう形でアクション映画に関われたことがうれしかったです。いつか出演できたらいいと思いますが、まず英語を勉強しないと(笑)。でも、せりふがなくてもいいから、とにかくアクションがしたいです。できれば、亡くなったポール・ウォーカーと共演したかったです。

-この映画を見た感想を。

 とても面白かったです。ユーモアにあふれていて、テンポも早かったので、あっという間に時間が過ぎていくような感じでした。あとは、向こうの方々の表情の作り方は日本とは違うなと思いました。日本では成立しないような、ちょっとした目線の送り方やテンポが、向こうでは成立するんだなと改めて思いました。観客として見るのと仕事として見るのは違うので、普段とは違う感覚で見ていましたが、タンジェリン(アーロン・テイラー・ジョンソン)とレモン(ブライアン・タイリー・ヘンリー)のやり取りが特に好きでした。

-最後に、観客に向けてアピールポイントをお願いします。

 ちょっと目をそらした隙に、話が進んでしまうので、目を離さずに集中して見てもらいたいと思います。親子愛や友情もしっかり描かれていて、ただのアクションではありません。私は、字幕と吹き替えの両方を見たのですが、どちらも面白かったです。先に字幕で見て、後から吹き替えで見て、せりふの違いを確かめたりするのもいいと思います。というか、2回見た方が、いろいろなことが分かって、面白さが増すと思います。そうそうたる声優さんたちが吹き替えをやっているので、そこも楽しんでもらえたらいいなと思います。おちゃめなブラピも見られますよ(笑)。

(取材・文・写真/田中雄二)