――あぁああ、撮影前に泣かせちゃって……すみません…

だ、大丈夫です。ごめんなさい。でも、母にあんなに、ギューッと強く抱きしめられたこと、なかったんです。

――その時、お父さまは?

父は総選挙を見に会場まで来てくれていたんですけど、私より家に着くのが遅かったんです。1時間くらいして帰ってきたんですけど、そうしたら父もすぐ「佐江、よく言った!」って、佐江を抱きしめてきてくれました。

「お前は、申し訳ないけど、パパの血を持っちゃってるな。あんなところであんなことを言うなんて。でも、俺はよく言ったと思う」って。

私は小さい頃からママっ子で、父には自分から寄って行ったこともあまりなかったし、父から私に寄ってくることもなかったのに。記憶のなかで、ほんとに幼い時ぶりに父親に抱きしめられて。私、驚いちゃって。

ふたりの兄たちからも、初めて「お前、カッコいいな」って言われて。もちろん「聞いてないよ!」「ビックリした!」とも言われましたけど(笑)

あのスピーチの後、ファンの皆さんにも、スタッフさんにも申し訳ないって気持ちでいっぱいで、何もかもグチャグチャのまんま家に帰り着いたんですけど。パパと、ママと、お兄ちゃんふたり。そうやって言ってくれる人たちの言葉のおかげで、いま自分がいるんだなって。頭は混乱したままだったけど、心は、落ち着くことができたんです。

それで朝から食べることすら忘れていたご飯を、やっと食べられました。母の作ってくれたご飯を食べて、自分はお腹が空いていたんだなってことを、ようやく思い出せました。

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