結末までは決めずに書き始める

 

古沢良太の脚本の特徴というと、日常の会話の中で人間の複雑な心理を描いたり、複数の登場人物の言動をロジカルに構成したりすることのようにも思えるが、いったいどのようにして書き進めているのだろうか。

「オリジナル作品の場合は、いつも結末までは決めずに書き始めています。もちろん、何となくの全体像は最初に決めているんですが、その通りにはならないものなんですよね。

『ゴンゾウ』の場合もそうでした。『ゴンゾウ』は、過去にある体験で心に傷を負い、ドロップアウトした男が主人公なんですが、その過去の傷が何なのか、まったく考えずにスタートしたんです。でも、途中でさすがに考えなきゃいけないな、ということになって、第7話をすべて過去の話にして描きました。だから、主人公の過去の傷は、そのときに考えたんです」

 

リアルタイムで『ゴンゾウ』を見ていたときは、斬新な構成の第7話だったが、そんな事情があったとは……。2009年にNHKで放送された『外事警察』でも同じようなことがあったという。


「最初に爆発が起こるシーンから始まって、のちのちそこに時間が戻って、なぜその爆発が起きたのかがわかる構成にしたんですが、また何も考えずに始めちゃって……(笑)。でも、その爆発のシーンは第1話の冒頭なので、途中でもう撮影しなきゃダメだという話になって、せめてこの爆発はどういう場所で、どういう状況で起きているのかだけでも教えてくれとスタッフに言われてしまったんです。それで、とにかく適当に言って撮影してもらいました(笑)」

 

本人は「適当に」と言っているが、作品の完成度をみれば、それを仕上げるまでにどれだけの苦労があったかはうかがえる。

「『外事警察』は楽しい仕事だったんですが、肉体的にはすごく大変でした。とにかく外事警察がどういうものか、プロデューサーも監督もみんなよくわからない世界だったので、何が正解か誰も判断できなかったんです。ですから、とにかく手探りで書いてみて、違うんじゃないかと思ったらまた書き直しての連続でした。

たった全6話の作品でしたが、めちゃくちゃ書きましたね。缶詰にされて(笑)。本当は撮影に入る前に書き上げる予定だったんですが、放送が始まってもまだ書いていました。最後はスタジオの契約も切れて、別のスタジオを借りて撮影したりしていましたね」

 


『外事警察』は、公安警察の外事課とテロリストとの戦いを描いた麻生幾の小説を原案としたドラマ。公安の仕事自体があまり表に出ないものなので、それを映像化するのはもともと大変だったということだ。

しかし、渡部篤郎、尾野真千子、石田ゆり子、遠藤憲一、石橋凌、片岡礼子、余貴美子などが出演したこの作品は、物語の構造も登場人物の心理も裏の裏まで描くような作りで、非常に完成度の高いものだった。初回の冒頭から繰り返し挿入された爆破シーンも、最後は主人公のキャラクターを強調する大きな仕掛けに使われている。2012年には続編が映画化。この間に尾野真千子も朝ドラ『カーネーション』でブレイクし、新たなファン獲得に一役買っていた。

 

そして、2012年4~6月期にフジテレビ系で放送されたのが、「『外事警察』のフラストレーションがあったのは事実」と本人も認めるように、これまでにないほどおもいっきりハジけた法廷コメディ『リーガル・ハイ』だった。