上白石萌音(ヘアメーク:冨永朋子(アルール)/スタイリスト:嶋岡隆、北村梓(Office Shimarl)) (C)エンタメOVO

 女優のみならず、声優や歌手としても目覚ましい活躍を見せる上白石萌音。「ナイツ・テイル-騎士物語-」「千と千尋の神隠し」「ダディ・ロング・レッグズ」で世界的演出家ジョン・ケアードの舞台作品に出演経験もある上白石が、次に彼とタッグを組むのが、2023年3月に開幕するミュージカル「ジェーン・エア」だ。09年と12 年に松たか子主演で上演され、今回は新演出版となる。ドラマチックな音楽でつづる、情熱と強い意志を持った一人の女性の自由と愛を求める物語だ。屋比久知奈との役替わりWキャストで、主人公ジェーン・エアと、その親友ヘレン・バーンズ役に挑む上白石へ、出演への意気込みや、「千と千尋の神隠し」出演からの思いを聞いた。

-本作への出演が決まった心境を教えてください。

 私は松たか子さんが大好きなので、大尊敬する憧れの方が演じていらっしゃった役ということで、とんでもないことになっちゃったなと思いました(笑)。それから、ジェーンの相手となるロチェスター役を前回の公演で演じていた(橋本)さとしさんとは、舞台「千と千尋の神隠し」で共演していたので、そのときに、出演することをご報告したら、すごく喜んでいただいたんです。が、今回のロチェスター役が(井上)芳雄さんだという話になったら、「芳雄かあ、俺がやりたかった。芳雄はかっこよ過ぎんか?」っておっしゃっていました(笑)。すごく大切にしている作品だというのもお聞きしたので、新演出版もよかったと思っていただけるように頑張りたいです。

-作品の魅力をどのように感じていますか。

 舞台「千と千尋の神隠し」で共演していた妃海風さんから「大好きなの! 絶対に見にいくね」とおっしゃっていただいたり、演劇人の中でご一緒している方や先輩方にもファンが本当に多いんです。作品で語られているメッセージが素晴らしくて、キリスト教の敬虔(けいけん)な教えが多く詰まっていると思います。ジェーンは、小さいときに学んだ、人として大切なこと、人を許すということをずっと持ち続けて生きている人で、どんな境遇でも人を許し、愛しながら生きていきます。そこが核となっている作品です。

-今回演じるジェーンとヘレンをどう演じたいと考えていますか。

 ジェーンは、孤児である生い立ちや自分の見た目などに強烈なコンプレックスを持っています。私もたくさんコンプレックスがあるので、そういう部分ではジェーンと通じる部分が多いと思います。ヘレンは幼くして達観した考えを持っている子で、病気で早くに亡くなってしまうことも納得できてしまうような崇高さを持っています。生まれてきてすぐにきれいな心を持ったまま星に帰って行くというような、はかなさや一瞬の命のきらめきみたいなものを繊細に表現できたらと考えています。

-井上芳雄さんとは、「組曲虐殺」「ナイツ・テイル-騎士物語-」「ダディ・ロング・レッグズ」でも共演していますが、本作での共演への期待は?

 今回のロチェスター役は、芳雄さんにとってすごく新鮮なのではと思っています。ロチェスターは位の高い方ですが、どちらかというと野蛮で、どこか獣っぽい雰囲気があります。そのロチェスターをあの精悍(せいかん)な芳雄さんがどのように演じられるのか、一ファンとしてワクワクしています。きっとすてきな、でも新たな芳雄さんを目撃することになるんじゃないでしょうか。

-「ダディ・ロング・レッグズ」での二人芝居から続けての共演ということで、何か考えていることは?

 「ダディ・ロング・レッグズ」における作品内の2人の年齢差が15歳ぐらいですが、「ジェーン・エア」では20歳差で、ちょうど私と芳雄さんと同じぐらいなんです。原作でもロチェスターは大男でジェーンは小さいので、見た目と年齢はぴったりです(笑)。いい意味での凸凹感、かみ合わなそうな、愛し合わなそうな2人の組み合わせで、作品が面白くなればいいなと思います。

-初共演となる屋比久さんの印象は?

 初めて屋比久さんの歌を聞いたのは、映画『モアナと伝説の海』でした。そのときに「なんだこの方は!」と大感動しました。彼女の歌声が本当に好きで、それ以来、屋比久さんの歌のファンです(笑)。Wキャストは、舞台「千と千尋の神隠し」で橋本環奈ちゃんと経験しましたが、そのときに、どれだけ心強くて支えになって、一緒に一つの役を突き詰めるというのがどんなに楽しいことかを、環奈ちゃんから教えてもらいました。今回も、たくさんのことを学ばせてもらいながら、屋比久さんと一緒に何かを見つけられたらいいなと思っています。

-舞台「千と千尋の神隠し」は非常に注目されていた作品でしたが、改めてどんな作品でしたか。

 世界観も壮大で、人ではないキャラクターがたくさん出てくる摩訶不思議な雰囲気があって、せりふの一つ一つがとてもシンプルだけど心に残る言葉にあふれていて、公演を重ねれば重ねるほど好きになった作品でした。そうした作品に、10歳の千尋として、何にも染まっていない真っ白な心でいろんなものを発見したり受け取ったりとかしながら舞台に立てたことが、本当に楽しくて仕方がなかったです。もちろん、いわずと知れた名作を生で演じるというプレッシャーも大きかったですが、それをみんなで越えていけるガッツのあるカンパニーでもありました。誰よりもこの作品が好きだという人が集まっていたので、上演を重ねるに従って愛が増していきました。私はこの作品に青春をもらったなと思います。

-その経験をどう本作に生かしていきたいですか。

 舞台「千と千尋の神隠し」で毎回心掛けていたことは、“毎回、初めてやろう”ということでした。千尋は知らない世界に飛び込んで、初めてのことだらけという、その初めてをリアルに感じながらやっていこうというのは、毎回肝に銘じてやっていたんです。それをずっとやり続けることができたことは、私の自信にもなりました。「日々、発見をしなさい」とジョンがよくおっしゃるのですが、“発見する”というのがどういうことかというのは、千尋を演じてなんとなく分かってきたかなと思うので、今作でも同じような思いで臨みたいと考えています。

(取材・文・写真/櫻井宏充)

 ミュージカル「ジェーン・エア」は、2023年3月11日~4月2日、都内・東京芸術劇場プレイハウス、4月7日~13日に大阪・梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティで上演。
公式サイト https://janeeyre.jp/